第10話 襲撃

レンは焚き火の近くで毛布にくるまり横なっていた。


『・・・起きて・・・危険・・起きて・・・』


小さな精霊達の呼びかけで目が覚めた。


「どうした。レン」

「何か、来る。何か恐ろしいものが近づいてくる。すごく、いやな予感がする」


レンの只ならぬ様子にハワードの顔が厳しい表情になる。


「サイラス。全員を起こして戦闘態勢をとれ」


全員が一斉に起きて戦闘体制をとる。


「ですが、探知魔法には反応がありません」

「念のため警戒を怠るな」


『風下・・・風下から・・来るよ』

再び、精霊達の声が聞こえる。


「お爺さま。風下側に嫌な気配を感じる・・」


レンの声と同時にサイラスの探知魔法に反応が出る。


「急に風下側より多数の魔物の反応。距離は約500m。この魔力の動きから考えるとおそらく使い捨ての召喚魔法陣かと思われます」


先ほどまで探知魔法に反応がなかったのに、急に湧き出てきたように魔物の反応が出た。


「魔法使いは魔物の反応が現れた地点に集中攻撃。近くに魔物使いと仲間がいるはずだ警戒しろ」


100匹近い犬の魔物コルボト群れにいくつかオークが混じっている。

魔物達が襲いかかってくる。

魔物のいるところに魔法使いたちの集中攻撃が始まる。

魔法使い達の攻撃にも関わらず次々に湧いてくる魔物達。


「使い捨ての召喚魔法陣は一般には流通していない。通常の手段では入手は不可能なものだ。そんなものまで使うとは、レンと儂をまとめて始末するつもりか」


ハワードの呟きに周囲の者達が驚く。


『気をつけて・・・危険危険危険・・・』


精霊達の警告が止まない。


同行している者達は事前に神眼で調べておいたが裏切るものはいない。

肌がヒリヒリするような感覚がどんどん強くなってくる。

背中がゾクっとする感覚がした瞬間、背中に体を隠すほどの大きさの木製の盾を3枚作り出した。

盾を作り出した瞬間、背後の盾に何かがぶつかる音がした。

慌てて飛び退くとそこに黒い覆面をした1人の男がいた。


名前:グラビス

年齢:40

種族:ヒューマン

職業:暗殺者

スキル:

  気配遮断 Lv6

  暗殺術  Lv5

  剣術   Lv4

  身体強化 Lv4

  呪術   Lv2

特記事項:(神眼保持者のみ閲覧可能)

  ギルドからレンとハワードの暗殺を請け負う

  暗殺ギルド【闇の使い】所属

  元オレイン王国親衛隊長

  王国滅亡後に暗殺ギルドに入る


レンの神眼に映った男のスキルに気配遮断があった。

しかもLv6というとんでもない高レベル。

ハワードが慌ててレンの前に立つ。


「レン、すまん。怪我はないか。この儂に気配を感じさせないとは、いま目の前にいるにもかかわらず気配は極わずかしか感じられない。目を離せば見失いそうなほどとは、相当な使い手だ。貴様、誰に頼まれた」


暗殺者の男は、目で認識しているから存在がわかるが、目を離せば存在を忘れてしまいそうになるほど存在感が無い。


「フン。この距離でしくじったのは初めてだぜ。そのガキは【木】とかいう変なスキルしか無いと聞いていたが。どうして気がついた。それとその盾、本当に木か?信じられんほどの硬さをしてる。魔の森の木と同じ硬さだぞ」


ハワードは、強烈な殺気を漲らせ徐々に距離を詰めていく。


「ダンマリかよ・・・やれやれこの襲撃が失敗した以上、勝ち目がないから失礼するぜ」

「逃げるのか」

「当たり前だ。金も大事だが、死んじまったら全てが終わりだ。誰かのために死ぬなんてまっぴらごめんだぜ」


襲撃者は、飄々とした感じで答える。

既に襲撃者の周囲を青龍騎士団の5人が囲み始めている。

他の青龍騎士団員は、魔物の殲滅と他にも敵が潜んでいる可能性を考えて、レンの周囲を囲んで警戒しながら魔物達を殲滅していく。

襲撃者が何か紙の様なものを投げると前に魔法陣が浮かび上がる。

そこからは、炎を纏った巨大なレッドウルフが雄叫びを上げて飛び出してきた。

高さは5mを超える巨体だ。

ハワードは、レッドウルフから距離を取ろうとしてレンを抱えて後方に飛び退く。

同時に騎士団員も全員後方に飛び退く。


「何、炎を纏ったレッドウルフだと、どこでこんなものを見つけてきた」

「お爺さま、炎を纏ったレッドウルフなんているの?」

「普通のレッドウルフは多少は炎を操るが、炎を身に纏うなど聞いたことが無い。変異種か」


ハワードの言葉にニヤリと笑う襲撃者。

襲撃者の足元に魔法陣が見えた。


「チッ・・使い捨ての転移門か」

「ハハハハ・・・こいつは俺様のとっておきだ。タップリとレッドウルフに遊んでもらいな。じゃあな!」


襲撃者は笑いながら魔法陣の光の中に消えていった。

レッドウルフが雄叫びを上げると、纏っている炎がさらに激しく噴き出してくる。

そして、レッドウルフの纏っている炎が周囲の草に燃え移り周辺の温度が急上昇していく。

草原は火の海となり始めている。

強烈な熱気と熱風が巻き起こり、息をするのも苦しく感じるほど。

燃え盛る炎の熱で全身が熱い。

レッドウルフの後ろで、強大な炎に自然の風が吹き込んで、小さな炎の竜巻を作り出し始めている。

レッドウルフは、こちらを向いて雄叫びを上げて一気に駆け出してくる。


「水魔法と氷魔法を使え。水と氷の魔法が使えないものは土魔法を使え」


ハワードの指示で魔法師は、水魔法を放つ。

水が苦手な者は、初級のウォーターボール、得意な者はウォーターランスかアイスランスを放つ。

水魔法が次々にレッドウルフに当たり、レッドウルフの動きが止まる。

水魔法や氷魔法が使えない者たちは、地属性サンドショットを使い、砂で周辺の炎を消していく。

堪らずにレッドウルフが炎のブレスを吐き出す。


「アイスウォール」


ハワードと騎士団の魔法使いは巨大な氷の壁を作り出し、レッドウルフを取り囲む。

炎のブレスと氷の壁が激しく攻めぎあう。

レッドウルフは、炎の竜巻を操り氷の壁を溶かそうとする。

炎の竜巻と炎のブレスが氷の壁を激しく音を立てて溶かしていくが、氷の壁も溶けた分作り出されていく。

氷の壁が炎を防いでいるので、他の魔法師達の攻撃は上空からに切り替わる。

レッドウルフは雄叫びをあげて、上空の魔法に炎のブレスをぶつけて相殺しようとする。

その間に氷の壁が急速に狭まり、氷の壁がレッドウルフを完全に抑え込む。

立ち上る激しい水蒸気。

雄叫びを上げて苦しむレッドウルフ。

炎を強めて氷を溶かそうともがく。

さらに激しく立ち上る水蒸気。

ハワード達はさらに魔力を注ぎ込み氷魔法の威力を高める。

お互いに魔力を振り絞り戦っている。

やがて、徐々に炎が弱まっていき、レッドウルフの雄叫びも弱くなり、そして完全に氷結。

レッドウルフは完全に凍結した。


「凄い」


レンの前に氷像と化したレッドウルフが立っている。

ハワードは剣で氷像と化したレッドウルフの首を切り落とした。

地響きを立てて氷漬けの首が地面に落ちた。


「レン。すまなかった。自信たっぷりに儂が守ると言っておきながら、お前を危うく死なせるところだった」

「想定以上に敵が強かったのです。あれ程の敵に襲われても、僕は生きてます。みんなのお陰です。だけど、いつまでも守られているだけでは無く、みんなと一緒に戦える様になり、次は自分の身は自分で守れるようになります」


レンの顔を見ていたハワードが微笑む。


「いつの間にか、一端の武人の顔をしている。危機を乗り越えて成長したということか」


青龍騎士団は残っている魔物達をどんどん殲滅してい、やがて全て殲滅し終えた。

誰1人欠けることなく敵を退けたことが青龍騎士団の強さを物語っていた。

朝日が照らす中、一向は帝都に向かって出発をする。

戦いの勝利にグレートホース達の嬉しそうないななきが草原に響き渡っていた。

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