第8話 女神像
目の前の人物は帝国の誇る大魔法使いのはずが,なぜか木剣を振り回している。
かなり長時間木剣を振り回しているはずが全く疲れた素振りを見せない。
魔法の腕前は1流。さらに剣を使わせればこちらも1流。
祖父一人いれば騎士団もいらないのではと思えてしまう。
現在、庭で祖父から剣の手ほどきをされるているのである。
「どうしたもうへばったのか」
穏やかな日差しの下で見本の型を見せるため、元気に木剣を振っているのはレンの祖父ハワードである。
最近,朝は祖父とともに木剣を振る毎日。
祖父の振る木剣の型を見てその通りに振るのだ。
木剣を振る回数は流石に手加減してくれているが,型の崩れはしっかりと指摘され修正させられる。
まずは正確な型を覚えさせられている。
「お爺さまは魔法使いですよね。なんでこんなに剣を使えるのですか」
「必要だから覚えた」
「必要だからですか?魔法使いも必要なのですか」
「いざ戦いとなった場合,奇襲攻撃を受けてしまい接近戦をやるしかなかった場合,魔法使いは魔法の発動が間に合わないものが多い。そうなれば魔法使いは真っ先に死ぬことになる。だがそれが解らぬ者が多いのだ。命がかかっているのなら生き残るために,日頃からあらゆる手段を身につけておくことが必要だ」
言われみれば確かに多くの魔法使いの魔法発動には時間がかかる。
無詠唱もしくは詠唱短縮ができない、詠唱を必要としている大半の魔法使いは、接近戦となったら真っ先に死ぬ。
だからと言って簡単に剣を使える様になる方がおかしいと思うのだが。
「レンは筋がいいな。力はまだまだだが動きがいい。実にいい」
ハワードは目を細めならが1人頷いている。
レンの剣の上達の姿を見ながら実に満足そうだ。
スキル剣聖が効果を出しているせいだろう。
剣術の型をどんどん吸収している。
スキルの力ばかりに頼ると,同じスキルの持ち主と戦ったら,熟練度で負けてしまうかもしれない。いや、間違いなく熟練度で負けてしまう。
最後にものを言うのは自力で身につけたもの。だから努力は馬鹿にできないと思っている。
しばらくすると剣の稽古は終わりとなり,1人でスキル【木】の訓練を始める。
長さ1mほどの木剣を10本ほど作ると,ハワードが1本を手に取る。
「不思議なものだ。魔力で作り出されたとは思えん。どう見ても木でできているとしか見えない。そして重さも軽い。不思議なものだ」
木剣を拳で軽く叩いてみる。
「硬さは木とは思えぬほどに硬く,そして軽い」
レンは,ハワードに様子に関係なくテーブルと椅子をいくつか作り出す。
「レン。この木剣は貰っていいか」
「使い道があるなら全部いいよ」
「領軍の訓練にちょうどいいから使わせてもらおう」
ハワードは10本ほどある木剣を全て抱えて持ち,走り去っていった。
ハワードが居なくなったため,庭にある数本の木から魔力操作を使いながら魔力を吸収していく。
ゆっくりと魔力を動かしなら吸収していく。
少し魔力が戻ったところで木像を作ることにした。
複雑な形であれば魔力操作の良い訓練になると思うからだ。
「そうだ。慈母神アーテル様の像を作ってみよう。スキル【木】を使い複雑な像を作れば、きっと魔力操作のいい訓練になるはずだ」
まず、丸太のような形で円柱の形で魔力の塊を作り出す。
丸太のようなと言っても元は魔力の塊。
魔力のつながりを切らなければ見た目は円柱の形でも、自分にとっては自分の魔力の塊である。
自分の魔力なら魔力操作で形を変えられるはず。
試しにゆっくりと形を変えるように四角柱をイメージしてみると形が変わった。
魔力操作で魔力の塊を削ってみると、削りおとした部分は光の粒子となって消えた。
「これなら慈母神アーテル様の像が作れる」
以前に見た姿を思い出しながら、少しずつ形を整えていく。
何度か修正を繰り返しながら時間をかけて、ようやく高さ30センチほどの女神像が1体完成した。
長くウエーブがかかった髪。
優雅にロングドレスを着こなし、左手には長い王笏を持ち、右手に宝寿を持ち微笑む姿。
見るからに威厳があり、今にも動き出しそうである。
細かい部分にまでこだわって製作をしたために、1体作るのにかなりの時間と魔力を消費してしまい、初めて製作したこともありかなりの疲労を覚えた。
レンは製作者のため気が付かないが、女神像からは慈母神アーテルの神気が溢れ、女神像の周辺に厳粛な空間を作り出している。
女神像を見るものは、女神像から目が離せなくなるほどの威厳と力を放っている。
レンはよく分かっていないが、像を製作するときに昔見た慈母神アーテルの姿を意識していたため、レンを通じて慈母神アーテルの本物の神気が流れ込み、神気が込められた本物の女神像と化していた。
慈母神アーテルは、レンが自分の像を作り始めたことをすぐに分かったため、レンの女神像製作にこっそり介入して、自分の像を作ったら自動的に神気を込めることができるようにしていた。
そこに祖母であるルナがやって来る。
ルナは、女神像から放たれる圧倒的な威厳ろ神気に驚いた。
「レン。こ・・この像は何!」
ルナは、像の放つ唯ならぬ存在感を感じ取っていた。
「僕の想像する慈母神アーテル様です」
姿を見たことがあるのだが、そんなことは言えないため、あえて想像した姿と言った。
だが、祖母であるルナと祖父であるハワードは、元聖女であるシンシアから慈母神アーテル様の使徒であると聞いているため、この像は慈母神アーテル様の姿そのものと考えた。
「レン。この像はもっと作れるかしら」
「魔力があればいつでも、何体でも作れますよ。ただ、1体作るのにかなりの時間と魔力を使いますからすぐに大量生産はできないです。今の魔力量だと1日に2体ほどかな」
「急がないから10体ほど作ってくれないかしら。これほど素晴らしい像は知り合いに分けてあげたいのよ」
にこやかな笑顔で話すルナを見たレンは、祖母の喜ぶ姿を見て嬉しかった。
「分かりました。大好きなお婆さまのためにお作りします。しばらく時間をください。自分の部屋に飾ろうと思って作ったのですが、それはお婆さまに差し上げます」
「いいのかしら」
「自分の部屋の分は、少し休んで魔力を回復させてからもう一度作りますから、記念すべき最初の像はお婆さまに差し上げます」
「ありがとうレン。これはこの屋敷のホールに飾って、屋敷を訪れた多くの方に見てもらいましょうね」
レンは念のため神眼で自分が作った女神像を見る。
慈母神アーテル様の女神像
製作者:
レン・スペリオル
効 果:
・半径10mを浄化して神域に変える。
・この神像があるだけで神域と化す。
・この神像があるだけで邪気邪霊を祓い清浄
化する。
補足事項:
・慈母神アーテルの姿を正確に写した像
・製作すると自動的に神聖魔法が発動し
神気が込められて本物の女神像と化す。
・効果の範囲は像の大きさと込められた魔力
と神力により変わる。
・できるだけたくさん作ってね!
(アーテルより)
神眼に写る内容のあまりの凄まじさに言葉も出ない。
この女神像を置くだけでそこを神域に変える。
しかも自分がアーテル様の像を作れば、自動的に本物の女神像になるみたいだ。
どんなレアアイテムですか。
しかも、最後にはそんなレアイテムをたくさん作れとのアーテル様からの注文が付いている。
まさしくこれは神命と言ってもいいことだ。
しばらくの間は、神命により神像職人となることが確定した瞬間であった。
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