第6話 布石
帝都にあるスペリオル公爵邸は,広い敷地に色とりどりの花が常に咲き誇り,別名:華の園とも呼ばれている。
邸宅の中には,有名画家の絵が幾つも飾られ,使われている調度品もかなりの高級品を使っている。
そんな邸宅の奥に,スペリオル公爵夫人エレンはいた。
母親譲りの金色に輝く髪,透き通るような白い肌。誰もの見惚れるほどの美貌である。
公爵位を継いでいるダニエルは、エレンの言うがままのため、公爵家内ではエレンの言葉は絶対であり、事実上の当主のような扱いである。
優雅に紅茶を飲みながら家臣達の報告を聞いていた。
そのエレンの前にゼスとミモザが跪いていた。
「義父様達には全てバレてしまったのね」
「申し訳ございません。ですが証拠となる魔法陣はすぐに全て処分しておきました」
ゼスの謝罪に合わせてミモザも頭を下げる。
「まさか義父様がご友人の元聖女様を伴って,ハルの館を訪れとは思わなかったわ」
「部屋に入ることをお止めることができず申し訳ございません」
「仕方ないでしょう。あなた達では義父様を止めることはできないでしょう。運が悪かったと思いしかないわ。でも,義父様はどんなに怒ってもダニエルにはとてもとても甘い人です。表沙汰になれば公爵家も終わる事になります。だから,義父様もこれ以上の騒動にはなさらないでしょう」
夫であるダニエルは、スペリオル公爵家のたった1人の子であり、義父母はダニエルにとても甘いことは分かっている。
エレンはダニエルさえ抑えておけば問題無いと考えていた。
「ですがレン様を如何いたします」
「無能であっても義父様と義母様のお気に入りですから,しばらくは手出しできないでしょう」
「ならば,私が動くべきかと」
ミモザが動くことの許可を求める。
「いえ,今はやめておきましょう。義父様は警戒しているでしょう。義父様の住むヨーク領の館は戦争ができるほどの館。見た目はごく普通の館でも,中身は堅固な城と同じよ。そこには超一流の武人や魔法使いが何人もいる。メイドや庭師を含め全ての使用人達がかなりの戦闘訓練を受けている者達ばかり。この帝都にある義父様の館も同じ。まず忍び込むことはできないわ」
「ですが・・・」
「焦る必要は無い。警戒が緩むまで待ちましょう。それまではレンの評判を落としていくようにすればいいのよ。ミモザ、あなたは一度ギルドに戻りなさい」
「「承知いたしました」」
エレンは窓の外の様子を見ている。
そこには幼い姉弟が遊んでいる姿が見えていた。
4歳と2歳になるエレンの子であり,レンの妹と弟になる。
4歳の妹には火魔法の才能がある事は既に分かっていた。
エレンはそんな子供達の様子を嬉しそうに見つめていた。
ーーーーー
ヨーク領スペリオル邸
ハワード・スペリオルは,公爵の位は娘夫婦に渡したが,全てを渡した訳ではなかった。
本来,公爵の位と領地の管理権はセットであり,爵位を継げば全ての領地の管理権もついてくることになる。
しかし,息子夫婦の能力に疑念を持っていたため,爵位と同時に渡した領地は,半分に止めていた。
領地の運営能力を見て残りを順次渡すつもりであったが,運営能力の無さが露呈して2年前から新たな領地を渡すことをやめていた。
娘夫婦は爵位と領地の半分を得てから急激に傲慢になり,金遣いが荒くなっていた。
そのため,皇帝よりこれ以上の領地譲渡は禁止を申し付けられていた。
ハワードが現在も領主となっている場所は,帝国にとっても最重要拠点であるため,皇帝より息子夫婦への譲渡を特に禁止された場所でもある。
つまり,皇帝とハワードの2人が承認しない限り残り,残りの領地が息子夫婦に渡ることが無いという異例の事態となっていた。
ヨーク領スペリオル邸は,質実剛健の考えを基に作られている。
来客に備えた部分は高級品ではあるが,華美な装飾は控え落ち着いたものが置かれていた。
息子夫婦の館とは真逆である。
そんな館の中でレンは祖父と祖母,そして祖父に仕える家臣たちと暮らしている。
ここにきて一ヶ月が過ぎようとしていた。
「レン。少し休憩にしなさい」
「はい,お婆様」
祖母であるルナが声をかけてきた。
薄い青色の髪を靡かせて実年齢よりも遥かに若く見える。
レンは、どちらかと言うと祖母に似ていた。
祖母だけでなく祖父も実年齢よりも若く見える。
どうやらエルフの血がほんの数%だけ入っているためらしい。
庭に設たテーブルにお茶とクッキーが用意された。
「たくさん食べなさいね」
祖母はいつもニコニコしている。
「レンのスキルは面白いわね。こんなに色々作れるなんて」
レンは,ここ一ヶ月間スキル【木】の育成のため,徹底的にスキルを鍛えていた。
毎日,ひたすら木製品を作り続けている。
木剣,木槍,木刀,木皿,椅子などを毎日スキルを使い木製品を作り続けている。
今使っているテーブルと椅子もスキルで作り出したものだ。
テーブルや椅子を作りながらレンは考えていた。
この先、自分の持つ全てのスキルを隠して行くことは無理だと思っていたため、祖父母にはある程度のスキルを少しずつ知らせていこうと考えていた。
「お婆さま、このスキル【木】はとても凄いスキルなんです。木製品を作り出すだけでなく、木や植物の成長を促進できるのです。その力を使えば木や植物を数倍の速さで成長させることができます」
「本当なの、それは素晴らしい」
「実際にやって見せますね」
レンは、庭にあるまだ花も蕾もまだできていない成長途中の花に、スキル【木と森の恵み】を発動させる。
花を中心に魔法陣が光を放ち始めた。
急速に花の成長が始まり、蕾ができ、そして蕾が開き淡いピンクの大輪の花を咲かせた。
ルナは目を見開いて驚いていた。
「レン。このスキルは人前で見せてはいけませんよ。レンの身が危うくなります」
「どうしてこのスキルが、僕の身を危うくするのですか」
「このスキルを使えば、高額で取引される滅多に手に入らない希少種の植物であろうとも、種や苗を一つでも手に入れれば、瞬く間に無限に増やして行けることになります。レンを攫って隷属の紋章や奴隷の魔道具で心を縛り、永遠に希少植物の成長促進に使われますよ。闇ギルドや違法取引をやる闇の商人からしたら、まだ幼いレンは絶好の獲物です」
思いもよらない言葉にレンは思わず絶句した。
「いいですか、レン。あなたはまだ幼い。うっかりその力を見せればそれを利用する者達が寄ってきます。信用できるものと信用できないものを見分ける力。暴力で訴えてくるものを打ち払う力が必要です。ここの屋敷の者達は契約魔法で秘密漏洩禁止を結んでいますから大丈夫ですが、屋敷の外で、屋敷のもの以外の他人の前でその力を見せてはいけません。少なくとも理不尽な力を払い除けることができるようになるまでは絶対に秘密ですよ」
ルナの真剣な物言いに頷く。
「は・はい」
「私かハワードがいる時で、来客が来ない時に屋敷の奥で使う分にはいいわよ」
「分かりました」
現在の成長具合はこんな状態だ。
スキル【木】は派生スキルが次々に発生してきている。
氏名:レン・スペリオル
年齢:7歳
種族:ヒューマン
職業:スペリオル公爵家嫡男
状態:良好
スキル:
木 Lv4
・木製品製作 【Ⅳ】
・魔力吸収 【Ⅱ】
・木と森の恵み【Ⅱ】
・ウッドゴーレム
生活魔法
身体強化Lv2
魔力操作Lv2
レアスキル:
神眼(隠蔽中)
剣聖Lv2(隠蔽中)
全魔法適正(隠蔽中)
魔力回復量UP Lv2(隠蔽中)
全状態異常耐性Lv3(隠蔽中)
隠蔽Lv1(隠蔽中)
神聖魔法Lv1(隠蔽中)
称号:(鑑定では閲覧不可)
地母神アーテルの使徒
ククノチの加護
木と森の精霊たちの寵愛
補足事項:(神眼保持者のみ閲覧可能)
※木製品製作 【Ⅳ】
鉄の如き強さと特性を持つ。
※魔力吸収 【Ⅱ】
木と森から魔力をもらうことができる。
魔力総量の全回復。1日3回まで。
※木と森の恵み【Ⅱ】
木や森に魔力を与えることで一時的に成長を促進。
成長力20%アップ。効果は2日のみ。
※ウッドゴーレム
精霊達の力を借りて動かすことが可能。
襲撃の時に猛毒を受けたせいか状態異常耐性スキルが大幅にレベルアップしてしまった。
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