憎しみの味

パチンと意識が戻る


(損傷し過ぎた...)


周辺の人工物を分解して体を修復し立ち上がる


(エネルギーが足りない)


それからガラス化した砂浜を抜けるまで海辺を1週間程歩いた

丘を抜けたところで遠くに人の集団が見え

背後から馬の走る音が聞こえる


「おい、止まれ」


「...」


馬に乗った複数人の集団が並走してくる


「聞こえているのか?ここから先は禁足地だ」


「禁足地?」


「そうだ!例え異邦の物の怪とは言え、立ち入れば呪われるぞ」


「あー...それってもしかして全身の脱力...とか...?」


「ン知ってるのか?」


「なるほど...だったら安心してください

私が呪いを取り除けますよ」


目の前の白いロープを跳び越す


馬に乗った人間がロープを超えてついてくる様子はない

1時間ほど走って小さな森を二つ抜けたところで黒い塊が目の前に見える


(石棺...随分と古風なやり方...)


ドアをこじ開けて炉心に近づいて炉心を見て回る


(炉心に砲弾が直撃、でも慌てて処理したからか

燃料も残ってる...掘り出し物ね)


2週間後


動物の死骸や木材や海水

黒い鉄の山と収捕された汚染物質を固めた塊が山積みになっていた


(まあ、材料としては十分)


材料の山に触れて

体をゆっくりと再構築していく


(機体の修理も完了...)


いつもより高い視点を感じながら手当を見る


(それに一回り大きくなった...)


ガチャン


(火砲の火力も倍増...)


護岸ブロックの上から沈む夕日を眺めて

鼻に留まった蛍を見ながら地面で眠った


禁足地の外に走って出ると

数人の人間が居た


「あ...」


話をさえぎって言う


「呪いはなくなりましたよ、それじゃ」


もう馬も追いつけない


それから1週間で赤い屋根の家の牧場まで戻ってきた

またあの道を歩き戸を叩く


「どちらさま?」


女の声と共に扉が開く


「...」


家の奥から声がする


「その声...お前か?いや...見た目が違うな...」


若者が出てくる


「あなたは...あの時の...」


「そう姉ちゃん、コイツだよ」


「あらこの子がその?」


「それで...この家の家主は?...」


「う...そう殺気立つなよ、畑にいるよ」


「そう...」


家の奥から女が言う


「二人共!、立ち話もいいけどこっちに来て座ったら?」


言われるがまま椅子に座らさせられ

暫く二人の会話を見ていた


戸が開く音がする


「うん?君は...もしかしてあの時の...」


「はい、これから西の国に行くことになったので

その前に来ました」


「そ...そうかそれになんか成長してないか...」


「まあいろいろあって機体を改修したんですよ」


「...大変だったんだな」


若者が聞く


「でおじさん、やっぱりコイツと知り合いなの?」


「娘が世話になってな」


「...」


「ところで不躾ですけど、この二人は?」


「今は収穫期だからな、姉弟で住み込みで働いてもらっている」


「私は弟についてきただけだけどね!」


「な...なるほど....」


その後幹電池や農業機械の整備をして畑のほとりに

着陸パッドを作り夜になった


「それじゃ、私はこれで」


「そうだなそれじゃ...」


「あら、もう夜も遅いわよ止まっていったら?」


「姉さん...」


「いえその必要は...」


「いいじゃない、泊っていくわよね?」


「...あ...はい...」


「お前それでいいのかよ!」


そのまま部屋に通され椅子に座る


「おい風呂湧いてるぞ、姉さんが待ってるから外出ろ」


「...分かった」


ドラム缶風呂につかる


「始めて時見た時ビックリしちゃった、あなたの体傷だけね

やっぱり戦争?」


「いや、これは製造時の傷だね」


「ふーん」


柔らかいベッドに体が沈みこむ

一息ついて眠る


刃物の気配を感じて咄嗟に掴む


「ん...あなたは....」


「...」


「ッずっとこの瞬間を待ち望んでいたのよ!」


ナイフに力が入るがびくともしない


「なぜ私を殺したいの?」


「私達は東の国の出身よ、そしてあの日街頭のテレビの中継であたを見た、

その後のことは分かるでしょ?私達姉弟はなんとか生き残った...けど」


「ふうん、でも最初に亜人優位主義かこつけて

大量破壊兵器を使ったのはそっちじゃない

まあ耳食い最貧層の耳なしには通じない理屈だろうけどね」


「ッツ」


「それと憎い人を殺すってのはねこうやるのよ」


防刃防弾服を開いて胸元にナイフを持ってきて突き立てる


ガリ!


「どう?これが肋骨の感触...それにあと数センチ動けば私は死ぬ、かもよ?」


「ヒッ」


尻もちをついて後ずさる


「...」


自分の手を見て言う


「これが憎しみ...妙...」


立ち上がり刺さったナイフを折って体内にねじ込んで分解し

柄を窓から投げ捨て開いた服を閉める


物音に気付いたのかドアが勢いよく開く


「どうした!」


「姉さん大丈夫か!」


「いえ特に何も、部屋の片付けで転んだだけです」


「え...ええ..」


「夜中だぞ」


「そういうこともあるんじゃないんですか?」


「ま...まあとにかくだ、明日は早い皆今は寝よう」


「...分かったよおじさん」


そのまま寝る


翌朝玄関から手を振って歩き出す


男が見送り途中聞く


「あの時本当に何もなかったんだよな?」


「はい!、本当に何もありませんでしたよ、それじゃ!」


それから数週間歩いて西の国の国境を越えて進んだ。



















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