二人の夢は【後】

寂れたインターチェンジを背に山を下り

淀んだ海と空が見える港町に着いた


内ポケットから紙を取り出して読みながら歩く


「町を隅々まで見る、アイスを食べる、墓に花を供えて自分も入る...これでいの?」


人でごった返す通りを抜け店に入って聞く


「アイスクリーム一つ」


店主が言う


「いいのかい?水の方が良くないかい?味分からないんだろう?」


「見ての通り舌はありますし、友達の頼みで食べに来たのでその辺はお気になさらず」


「へえ珍しいね、その上友達ね...面白い、ホラ食べな」


「これがアイスクリーム...」


「どうだい?」


「甘い?...これがおいしい?という感覚なのかな...」


「ハハ...それは良かった」


その後数分過ごして店を出て指輪探しのついでに町中を見て回り

花を買って墓地まで来た


「ここね」


墓に花を供える


背後から女の声がする


「ここで何をしているの」


幹電池を抜き墓石の上に置いて言う


「セキュリティは潜り抜けたはずだけど、そういうあなたは?」


「私はこの一族に仕える墓守よ、人影が見えたから来たの」


「ならよかった、この子を埋葬してあげてくれない?」


「この子?」


「  って子で、叔父がまだここで地区の管理者をやってるはずなんだけど」


「...」


「分かった、それを持ってついてきて」


そのままついて行って大きな屋敷が目の前に見えた

そのまま応接室に通され、暫くして壮年の老人が出てくる


「墓守、お前は外してくれ」


「は...はい」


「それで?息子は前線で戦っていたはずだが?、どいうことだ?」


幹電池を机に置いて言う


「戦時中の材料不足です、あなたの息子は前線で重傷を負い

年齢に対して適正が高かったので、部品にされました」


「...それで、今は生きているか?」


「縛りを解消してしまったので魂はもうないですね」


「死んでいるのか?」


「人で言えば脳死、哲学的も死んでますよ」


「...」


「残念だ、では一族を集めて葬儀を執り行うとしよう

理由はどうあれ息子を送り届けてくれたんだ、君も出るかね?」


「はい、勿論」


3日後、厳かな葬式が行われた

葬列からは少し離れて歩いた

葬儀が終わった後


飛んできた石が頭に当たる

数人の若い人間の集団の中から一人の若者がこちらを見て言う


「お前が兄さんを部品にしていたオートマタか?」


近くに居た墓守が言う


「ちょっとやめなさい!」


「大丈夫、投石くらいじゃ...」


「そういう問題じゃない!あなた分からないの?」


「分からない」


「...」


「お前が作られなきゃ兄さんは人として死ねた、そうだろ!」


「そうだね」


そう言って墓場から立ち去り

郊外の闇市に向かい、数軒回った


道端のブローカーに聞く


「こういう指輪、買い取らなかった?」


「ああ、これなら確かに買ったね」


「ならこれ売ってくれない?」


「生憎非売品だよ、来月妻にプレゼントするんだ」


「それならこれと交換でどう?」


「これは?」


「戦時中に出回ってた興奮剤、麻薬だね

末端価格にすれば200...」


「いいねえ分かった!それと交換しよう」


「交渉成立だね」


そのまま指輪を持って町に帰った


ゲートの警備員が言う


「お使いにしては、ずいぶん遅かったじゃないか」


「まあ色々...ね」


家の戸を叩く


「あら瑞星!、もうあれから四日、大丈夫だったの?」


指輪の箱を見せて言う


「この通り、ちゃんと持ってきたよ」


女に呼ばれてやってきた男が言う


「これで僕達は結婚式を挙げることができる、君のおかげだ、ありがとう!」


「ええ...そうね、ま立ち話してばかりでは悪いわさ、入って」


家のリビングで指輪を見て言う


「瑞星、これ見える?」


「何かのもや?」


「これは人の意識の残滓、あなたの原子プリンターでは作れないモノよ」


「それってつまり...」


「私最初は複製品の方を持ってくると思っていたの

でも嬉しい、あなたがちゃんと探してきてくれたんですもの」


「...」


その夜部屋で結婚式が開かれ静かに式は終わった


「どうして私がこんな古い形式の結婚式で神父役なんか...」


「だって仕方ないでしょ、本物は呼べないんだから」


???


二人が床に膝をつく


「さあ、私達を殺して死ぬときは一緒、覚悟の上よね、あなた」


「ああそうだ僕たちは覚悟の上でここまで来た最高のゴールだよ」


「...」


ワイヤーを床に垂らす


「ねえ瑞星最後に教えて、あなたもいつか愛を知って幸せになるのかしら?」


無言で二人の首を切り飛ばす


「それはないよ」


その後家に火をつけて立ち去った























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