皆の夢

のどかな穀倉地帯の泥道を車を追い越しながら走る


途中、大きな金属音で足が止まる


「また故障...」と小さく呟き


徒歩に切り替えて歩く


途中人だかりと車列を見る


近くの車に乗っている老婆にひそひそ聴く

「アレ、検問所?」


眼鏡の老婆が答える


「あんたらの同類、特陸の残党だよ...嫌ねえ」


「ふーん」


「ところで、水が欲しいんだけど、水筒とかある?」


「嫌だね、兵隊崩れにくれてやる水なんてないよ」


「くれたらアイツらを私がどかせるんだけど」


老婆が困った様子でしぶしぶ水筒を差し出す


「ありがう!」


水を首の給水口に流し込みその場で光学迷彩を起動した


「それじゃ念のため車から降りて地面で伏せててくれる?」


と言い路肩から戦車に近づき

戦車のハッチをこじ開けて操縦者の首を握り潰した


「幹電池がない、全身の神経が焼けている、

自分を戦車に繋いだ、危険性を知らされてない練度の浅い部隊かな?」


腕から接続コードを出して戦車のシステムに接続する


「車内の指令システムの痕跡からして子供の徴発に反抗した郷土防衛隊の大人か...」


「よし!やることも終わったし主砲の弾も念のため抜いとこ」


その後外に出て戦車を持ち上げ路肩に転がして手を振って合図し、人を通した


「こんなに小さいのにずいぶんとパワフルなんだな」


「あたしが水と引き換えに交渉したんだよ!」


「ありがとう!おかげで親戚の結婚式に行けるよ!」


と言われ感謝されいろいろな物を貰った

そして転がった戦車に道行く人が石を拾って投げて通っていく姿を横目に先に進んだ


そして三日の昼、赤い屋根の家に着いた


家の戸を叩く、ドア越しに「誰だ?」

と言う声が聞こえる


「あなたの娘の知合いです、用があってきました」


と言うとゆっくりと戸が開き

銃を持った男が現れ「入れ」と言う


椅子に座り、出されたお茶を飲む

そして閑散とした部屋で男が聴く


「銃なんて持っててすまんな、最近物騒でなんだ、それで?何の用だ」


「要件はこれです」


と言いテーブルの上に背中から抜き取った幹電池を抜いて置き、

バッグを開けて中の札束と注射機を添える


男が立ち上がり震えた声で言う

「これは...どういうことだ...」


「生活に困らないようにと送られた先のこの家から徴発されて

あなたの娘は児童工員にはならず”パパが困らないように”と自分を売ったんです」


「....」


「....」


「戻せるんだよな」


「いいえ、こうなったら人に戻せない、死ぬまで部品のまま

今はこの私の補助装置で生きているけど5か月後には...」


「じゃあ...もしも、もしもだ、仮にだが、もう一度君に組み込めばあの子も...」


「永遠に生きられる?」


「…」


「戦闘兵器の部品として親より長く生きることが、

沢山大切な人を看取って生きることが幸福なことだと思いますか?」


男は頭を抱えて言う

「分かった...すまん...暫く一人にしてくれないか...」


黙って家の外に出て畑の柵に座り

眠って暫く待つ

すると、正面の道から銃を持った若者が来る


「特陸の残党?ここに何をしに来た?」


「残党じゃない、友達を家まで送って待ってるとこ」


「兵器が?」


「兵器として、ね」


「...」


「できれば丘の向こうにいる対戦車ライフルを持った人たちと一緒に

村に帰ってくれないかな?」


「分かった、今は退く」


「だが妙なマネをしたらお前を狩りに来るからな」


「うん」


去っていく若者に小さく手を振って見送った


2時間後、家から男が出てきて言う


「それで、俺はどうしたらいい...教えてくれ」


「使い方は教えます、あの注射器を使って楽にしてあげてください

そしてあの丘に埋めて欲しい、と言うのが娘さんたっての願いです」


「そうか...妻もこの子も好きだった丘だ」


「ということはやはり...」


「戦争でな」


「悲しむしぐさや表情を作れなくて申し訳ないですが

それは...とても残念です」


「...」


「そうだ、もう一つ娘さんに頼まれてて

娘さんの持ち物だったらなんでも分子レベルで再現できますが、どうしますか?」


悲しみが混じった淀んだ声を嚙み潰して男が言う


「いや、それはやめておこう、複製されたとはいえ確かに同じ物にはなるだろう、

だが娘の書いたものにはならない結局それは...まがい物、なんだろ?」


「そう...でしょうか?」


「君にはまだ分からないか...だが、ここまでしてくれて本当にありがとう」


「...」


「それで...君はこれからどうするんだ?」


「命令通り全搭乗員の帰還、同型機の破壊です」


「大人のしたことの後始末を子供が、ってことか」


「それもありますが、死ぬならせめて故郷で親しい人に看取られながら、でしょ?」


「そうか、それはいいことだな、いいことだ...」


「それで、あなたはこれからどうします?」


「...」


「暫くは娘も生きられるんだろう?だったらせめて

死ぬまでそばにいてやろうと思う」


「いい選択ですね」


テーブルに無線機を置き席を立ち外に出る


「では待ちますよ、私はこれで。何かあったら呼んでください」


戸口で男が後ろから言う


「いいのか?泊る所もないんだろう?」


「大丈夫です、この地域でやることはまだまだ沢山ありますから」


「そうか、困ったときは言ってくれ部屋は余ってる」


「はい!それでは!」


農場を後にし、村に向かった















































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