第199話 対悪魔有識者会議
バーンズワース艦隊5方面同時侵攻。
このニュースはすぐにもシルビアたちへもたらされた。
第一報は9月2日。
忙しく緊張の解けない日々でも、人間17時過ぎには夕食のことを考えたりする。
ちょうどそんな気の緩みを叱咤するように、
『追討艦隊が基地に入った』
と、現地の協力者から届けられたのだ。
それから時間差はあれど数日のうちに、同じ報告が4件到着した。
「よし
9月6日、正午を少し回った頃。
ディアナ基地の、客人応対用の食堂。
長テーブルの食卓でカーチャが切り出す。
彼女の前には出前の麻婆豆腐が置かれている。
報告を受けた艦隊の総数を計算、5方面と結論付けたのは11時台。
急遽幕僚会議を開くこととなったのだが、時間も時間なので食事会となった。
「ただでさえリソースの少ない我々が、分散させられるのは、ですね。局所的には勝ちやすくなるかもしれませんが」
「二手三手、不測の事態が来た場合にゃ、対応は難しくなる」
カークランドの前にはサラミのピザ。ガルシアの前には1ポンドはありそうなリブステーキ。
考え込むタチのカークランドは、話す時タバスコを振る手すら止まる。
一方ガルシアは硬そうな肉を大口でワシワシ食らう。
「何より、一発逆転は無理ね。5発必要だわ」
シルビアはため息に混じりに、ちょうど5切れのバゲットを一つ取る。
そのまま半分ほどの深さまで、クラムチャウダーへ沈めた。
「でも逆に言えば。警戒すべきはバーンズワース閣下のみです。対して我々はタレントが多い。指揮官の差で兵力を覆せるなら。こちらの方が有利な対面を多くできる可能性もあります」
白いスープをパンに付けるシルビアの隣。
リータは真っ赤なパスタ、アッラッサッシーナ。
しゃべりながら口へ運んだためか、トマトソースで口元が汚れる。
それを幕僚ではないながら同席しているケイが、ナプキンで拭いてやる。
そこにシルビアの嫉妬剥き出し殺意の視線ビーム。
同じく『口を挟まない立場』として、隣に固まって座っていたシロナにも直撃。
流れ弾に顔が青くなる。なお当のケイには効いていない。
二人はそれぞれ、バナナパンケーキとオムライスを食べている。
「となると問題は」
一周するようにまたカーチャが口を開くが、
「逆に、誰がジュリさまと当たってしまうのか、ね」
継いだのは順番抜かしのシルビア。
「ジュリさまぁ?」
「バーンズワース閣下のことです」
「いつもなんです。なんでもないんです」
もはやシルビア、発狂せずともお決まりの呪文を言われてしまう。
それはどうでもいいとして、説明を受けたガルシアは腕を組む。
「貧乏くじ、死に番ってやつかぁ」
さすがの彼も、ステーキを食べる手が止まるほどの内容である。
「そんな負けるって決まってんじゃないんだから。男の子なら『オレんとこ来いや!』くらい言いなよ」
「スポ根マンガかよ。『エポナの
逆にカーチャは平然と、真っ赤な麻婆豆腐をパクパク口へ運ぶ。
「そんなことないよ。ほら見て、恐怖で汗びっしょり」
「そりゃ食ってるもんのせいだろうが。こっちまで刺激漂ってくんだよ」
トップ層に来るような女性は、男性よりよっぽど図太いと思うシルビアであった。
「で、結局バーンズワースはどのルートで来るか分かんねぇのか?」
ガルシアの質問に、ようやくピザを食べようとしていたカークランドの手が止まる。
「現状不明です。何しろ現地の情報提供者は一般人ですから。軍港やドックに忍び込んで、『
「まぁ、物資の補給とかどこかで兵士と現地の人が接触する機会はあるので。おいおい制服のデザインでも連絡してもらいましょう」
口調は落ち着いているリータだが。
アッラッサッシーナは非常に辛いパスタ。
いつも赤い頬をさらに赤くし、牛乳を飲みながら粉チーズをドバドバかける。
カワイイ!
と意識が不真面目になりそうなシルビアだったが。
汗を拭いてやろうとするケイと目が合い、かろうじて踏み留まる。
彼女はロリコンモードに流されないよう、あえて咳払いをして話に加わる。
「となると、誰がどのルートへ向かうかは現状決められないとして。問題は誰がジュリさまと当たるか、兵力をどう分けるかよね」
「向こうが艦隊を均等に分けてくるか、艦隊単位で分けてくるか」
リータの牛乳を狙うカーチャが呟く(辛いらしい)。
が、追討軍を均等に分ければ630。
対してバーンズワース麾下エポナ方面派遣艦隊は中枢艦隊なので600以上。
「どっちにしろ、一方面にエポナ艦隊がそのまま来ると見ていいいでしょう」
「となると、こっちも対抗するには中枢艦隊を丸ごと当てたいですね」
タバスコをビタビタにかけたピザへようやくありつくカークランド。
自分のメニューも忘れて、リータが変な目で見つつ相槌。
というか、7人中3人が辛いものを食べている。
「でもよ、そうなると偏るぜ? こっちは均等に分けても400だ。そこに一方面600も
「別ルートがますます厳しくなる、わね」
辛いものではないので、さっさと食べ終わったガルシアが頬杖をつく。
まだ食べ終わっていないシルビアは、クラムチャウダーが辛くなってきた気がする。他人の香辛料が鼻にこびり付いているのかもしれない。
が、もっと辛い、もとい渋いのは、料理ではなく兵力の台所事情。
彼女は腕組み唸る。
逆に激辛に苦しむリータは、ケイにパンケーキのハチミツをもらい回復している。
私たちにも、何かハチミツみたいな甘い何か……
そう思いながらリータとケイの皿を眺めていたシルビアだが、
赤く染まったスパゲティに、彼女の頭は一つの結論に結び付く。
「やっぱり」
「はい?」
ポツリとした呟きに、少女が首を傾げる。
「『あなたは世界一甘ーいイケメンよ』って、口説くしかないわねぇ」
続く言葉が意味不明すぎて、彼女の首の角度がさらに傾いた。
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