第181話 サンシャイン・シスター
「ゆえに、今後は自身の行動がユースティティア方面の活動に収まるのか。それとも皇国全体としての、政治的軍事的な意思表明として影響を及ぼすのか。それらを深く吟味すること」
「はっ!」
「判断がつかない、グレーに感じられる
「ははっ!」
「特にあなたは、第四皇女であらせられるのだから。その影響力と責任は大きく、全ての臣民の規範とならなければならない」
「はは〜っ!」
「以上!」
「はい!」
「いっぱいしゃべって喉渇いた! お茶!」
「庭で用意してあるわ」
昼過ぎ。
基地に来て早々、執務室にてケイの譴責が始まったが。
予想どおり、そんなものは一瞬で終わった。
彼女の態度も文面も、無駄に
居合わせたカークランドを非常に喜ばせるものだった。
そんな茶番も終わったので、ここからは姉妹の語らい。
ティータイムのために庭へ移動である。
肩を並べて廊下を歩く二人には、先ほどまでの公務的雰囲気はない。
もっとも、最初からあったか怪しいが。
「別に、今日明日帰るわけじゃないんでしょう?」
「そうだね。また長旅の物資詰め込みとかあるし。たとえ出発したかったとしても、すぐにはね」
「それはよかった。ゆっくりしていきなさい。あなたを歓迎するために、みんな準備をがんばったんだから」
「うれしいことしてくれるねぇ」
カラカラ笑うケイ。
しかし、少しだけその表情と声のトーンが下がる。
下がるというよりは、慈しむ感じだろうか。
デリケートな部分に触れるが、あまり暗くさせたくもない。そんな心配り。
「思ったよりは元気そうで、安心したよ」
急に言われたこと。中央の彼女にまで自身の現状が伝わっていたことに目を丸くするシルビアだが。
「まぁ、ね。ちょっとまえよりかは、ね。周りにはまだまだ心配させてるみたいだけど」
「そっか」
「だから、あなたが来てくれて本当によかったわ。私自身にも、みんなのためにも」
「崇めるがよい」
思ったより素直に普通に、言葉が出てきた。
これが、ケイの人柄ってやつね。その真骨頂だわ。
シルビアはあえて小癪に胸を張る妹を眺める。
彼女が軍港に降り立ち、ここに来るまで。
すれ違い、あいさつをするだけで誰も彼もが明るくなった。
クロエが昭和の透明感ある、みんなが理想の少女として崇めるアイドルなら。
ケイはCMなんかで『国民の妹』的に人気が出るタレントだろうか。
シルビア自身にしたって。
中身は梓なのだから、彼女の実感では妹でもなんでもない。
なんならゲームのキャラクターで、しかも恋愛ゲーの親友枠というサブポジション。
それでも、
「あなたが妹でよかったわ」
「あと何日かいるんだから、照れること言うなよぉ」
心の底からそう思わせる明るさがある。
彼女の紋章、『オレンジの枝と太陽』のような。
そんな話をしているうちに、二人は庭に着いた。
パラソルとテーブルに椅子。そのうえにティーセットが用意されて実にフォトジェニック。
二人は向かい合って席に着いた。
給仕らが控えていたが、ケイは
「君たちもさがってティータイムにするといいよ」
と水入らずにする。
「今日のお茶はなんですかな?」
「さぁ? ドクターおすすめのハーブブレンドだとは聞いているわ」
「うえっ、なんかマズそう」
「一般的なハーブティーが飲めるなら、味は保証するわよ?」
「へー」
テーブルに置いてあってタイマーがないのなら、もう飲めるということだろう。
カップに注ぐと、薄い琥珀色がやや複雑な香りを湯気に纏わせるが、
「うん、いい匂い!」
どうやら高貴な嗅覚のお気に召したらしい。
もっとも、『天皇陛下は決して「まずい」とおっしゃらない』という話がある。
真に高貴なる者のお心遣いかもしれない。
ところで、高貴なる者といえば、である。
「それにしてもあなた、最近忙しいんじゃないの? 公務のニュースでよく見るわよ?」
「まぁね。国が大変な時だから、今まで支えてもらった分は返さないと。私にできることならね」
「立派な心掛けだけど、わざわざこんな使者くらい、人にやらせればいいのに」
もちろん助かったし、『譴責を軽いものにする』意図があったのも分かる。
が、シルビアとて文章の内容くらい理解できる。
今回言われた程度の内容なら、たとえ知らない政務官が来ても
『あら、意外にチョロかったじゃない』
くらいの判断はつく。
むしろケイが出てきては、変に大事化するというか、畏れ多いというか。
しかし彼女は、
「うーん、クッキーうまーっ!」
そんなことどうでもいい、というようにお茶請けを賞味してから、
「ま、もう一つ私から直接伝えておきたいことがあってね」
「何かしら」
給仕がいないので、自分でお茶のおかわりを注ぐ。
「私、今年の建国記念式典で委員長やってるんだけど」
「本領発揮ね」
「それで今、皆さま方に招待状を撒き散らしているところなんですが」
「言い方。あとお茶そんななみなみ入れたら
しかし、向こうはプロのおてんば。
豪快なやり口をしてからがまたお手のもの、上手にお茶を口へ運ぶ。
それも作法どおり背筋を伸ばしたまま、カップの持ち手穴に指を通さず。
彼女は熱い液体を少量喉に通し、一息つくと言葉を続けた。
「でも、今年はお姉ちゃんを招待しないことにしました」
「えっ、なんで?」
「だって、正直休んでたいでしょ?」
皇国でも指折りに大事な式典。特に皇族たるシルビアは、意義的にも出席すべき式典。
それを実にこともなげな感じ。
たしかに彼女とて、アンヌ=マリーのことがあった。
それでなくとも、知らない人ばかりの社交界で『シルビア』をこなすのはしんどい。
避けられるならそれに越したことはないが、
「いいの?」
「いいよ? 政治的な面でも、休むメリットあるし。そういうわけで言い訳はいくらでもできるし」
「そ、そう」
「っていうのを伝えるのに」
ケイはテーブルに両肘をつくと、両掌にあごを乗せる。
そのまま身を乗り出し、満面の笑みをずずいっと寄せてくる。
「文章とか他人だと、なんか冷た〜いハブにされてる〜? ってなるかもだから。善意100パーセントなのを伝えるために直接来ました!」
「それはどうも」
「ほら! 見て! この顔見て! 姉を思いやる慈愛に満ち溢れた妹フェイスを見て! 分かるでしょ!? 伝わるでしょ!?」
「もう見なくても伝わったから。もういいから」
「ちなみに一人で建国記念も寂しいかもだから、リータちゃん呼んどいたよ。そのうち来る」
「あなたが神か」
マイ・ラブ・ロリータで一気に態度が変わるシルビア。
喜んでもらえてケイもうれしいらしい。二人でキャアキャア騒いでいると、
「かっ、閣下! 失礼します閣下!!」
急に庭へカークランドが飛び込んできた。
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