第170話 大乱闘スマッシュシスターさん
戦闘開始から32分。
高速戦闘の結果、早い段階で両艦隊が肉薄する。
戦艦同士が真横に付けて入り乱れて、殴り合えるような距離で撃ち合うなど。
いったいいつの時代の戦争だというのか。
ネルソン・タッチでも重宝がられそうな戦場である。
旧時代で言えば、艦載機もそう。
シルビアが初めて立案した作戦で印象深いが。
第二次世界大戦には猛威を振るった航空攻撃も今は昔。
対空も弾丸ではなくビームで薙ぎ払う戦場では、敵艦へ到達するのが難しい。
ゆえに『宇宙世紀の真珠湾』のような、奇襲でしか費用対効果が見込めなかった。
しかしこのように接近戦ともなってしまえば。
『敵艦へ到達する』段階をすっ飛ばせるので、じゅうぶん攻撃の手が届く。
火力補助はもちろん。言い方は悪いが、羽虫が顔の前を飛ぶようなハラスメントにもなる。
もっとも、生還率に関してはそう向上するまいが。
それで結局何が言いたいかというと、
「閣下! 艦載機多数! 来ます!」
「安心なさい! 戦艦の砲撃を防げるのよ! 艦爆ごときカイロみたいなものよ!」
「閣下! 僚艦かと思ったら、いつの間にか敵艦に!」
「当該敵艦、爆散!」
「レーダーよ! レーダーのシグナルを常に確認しなさい! 目視じゃ追い付かないわ!」
たとえばこの『
てんやわんやになる、ということである。
が、彼女らはまだいい方である。
何しろ、被弾に対する脅威度が低い。
これが他の艦になると、
「前方の敵艦撃沈!」
「
「艦長! 前方より接近してくる大型熱源! 迎撃しましょう!」
「よく見なさい! あれは味方艦です!」
たとえば『
防御に限度があるため、撃たれるまえに討たねばならない。ゆえに次から次へと目の前の脅威に噛み付くことに。
するとこのように、危うく誤射しかかる場面も出てくる。
ということは、
「艦長! 後方より味方艦接近!」
「救助要請でしょうか!? 忙しいのですが!」
「なっ!? 熱量増大!」
「取り舵! ロールで回避!」
味方から誤射される可能性もあるということ。
普通に戦闘するより、被弾の可能性が跳ね上がっているのだ。
「くううぅぅぅ!!」
うつ伏せの人間が横へ転がるように回避する『
戦闘中の艦橋には人の動きを安定させるため、ある程度の重力が設定される。
つまりこの動きは、宇宙空間であろうと『天地がひっくり返る』負荷を及ぼす。
「わああぁ!」
「きゃあ!」
遊園地のアトラクション程度には、揺れとクルーの悲鳴が巻き起こった。
「くっ! 鐘まで付けているのに、それでも敵と見分けがつかないとは!」
それが治まり、アンヌ=マリーが歯噛みした束の間、
『ドルレアン! そこを
「艦長! 『
「もう! なんなの!」
ロールした先がコズロフの進路だったらしい。
さらなるロール回避を試みると、
その際に飛び回る爆撃機を何機か巻き込んだらしい。
そのうえ、運悪く爆弾を抱えたままの者もいたようだ。
ロールの揺れと衝撃が、勝手に上級者向けアトラクションへ変貌する。
舌を噛んではたまらない。悲鳴を上げたいのをグッと奥歯で噛み殺す。
少し取り乱した操舵手が、やや遅れて姿勢制御するのを確認してから
「被害状況は!」
「第二砲塔付近にて爆発! 航行には支障なし!」
「砲塔も健在! ただしシグナル不安定!」
「人的被害はいまだ不明!」
「ダメージコントロールを急がせなさい! 暴発の危険がありますから、安全確認できるまでは第二砲塔を使用しないように!」
気が遠くなりそうな戦場でも、振り回されるおかげで頭に血が回るのか。
逆に過剰な分を叩き出してくれているのか。
そのあたりは不明だが、一応アンヌ=マリーも指示ができる程度には冷静。
やはりさすがは異名を取るほどの軍人か。
が、できるできないは別として、切実な問題。
彼女は斜め被りどころではなくなった帽子を整えつつ。
モニターの中を悠々かっ飛ばす『
「もう! さっさと決着つけてくださいよね! 一刻も早く! 可及的速やかに!」
とにかく終わってくれ、と。
ギリギリ指揮こそ執れても、頭の中はそれでいっぱい。
そんなアンヌ=マリーの祈りが通じた、わけでもないだろうが。
「閣下! マークアップした熱源が接近! 間もなく接敵します!」
「来たわね!」
『
ついに両雄が殺しの間合いへ詰め寄った。
お互いが相手を探し、そちらへ突っ込んでいったのだから、まぁ当然ではある。
シルビアにとっても待ちに待ちかねた瞬間。
クイズ番組でボタンでも押すかのようにデスクを叩く。
「近くの味方は!?」
「『
「よしっ! その二隻を伴って、コズロフに仕掛けるわよ!」
「両艦に連絡! 『我に追随せよ!』」
彼女は興奮を堪えるように口元へ手をやり、自然とその人差し指の中ほどを噛む。
当然コズロフはこちらが顔を出せば突っ込んでくるはずである。
そのためにここまで真っ直ぐ突出しているのだから。
その砲撃をアンチ粒子フィールドで耐えつつ、僚艦がカウンターを撃ち込めば。
今度こそ! 今度こそおさらばよ! コズロフ閣下!!
シルビアが
「当該艦、モニターで目視可能の距離!」
向こうがもうそこにいる。
「どう? 魚雷発射管とか、ミサイルみたいなのは見える!?」
一応念のため。
バリアに関係ない実弾兵器が引っ張り出されていないかも確認する。
もっとも徹甲弾のようなスタイルでもなければ、酸素のない宇宙で意味はないが。
「確認されません!」
「副官!」
「自分からも対策は認められず!」
「よし!」
ならばあとは仕留めるだけ。
勝負の時である。
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