第147話 同盟軍との第二ラウンドは
一時間もしないが、さっきまで殺し合っていたにしては長い
追討軍が戦場を去ってから。
『バーナード少将、ロカンタン中将。さすがだ。見込んだとおり、いや、それ以上さ』
『私らじゃ、こうはいかんだろうねぇ』
「身に余るお言葉、光栄ですわ」
『いただいた最新鋭艦と、閣下らのご指導ご鞭撻がゆえです』
沸き立つ味方の歓声を、艦橋内でも無線越しでも聞きつつ。
両元帥閣下より大金星を讃えられる歓喜の時。
何より『イワン・ヴァシリ・コズロフ敗退』という、この戦役を決着させる事実。
それを噛み締め、声高々に喝采すべき時なのだが。
『さて、と』
バーンズワースの声には、美酒に酔う響きなどない。
昼間っから飲んでいるような元帥閣下が、勝利にすら素面。
そう、
『それで、連戦は可能かな? それとも僕らとバトンタッチするかい?』
戦いはまだ、終わっていないのだ。
『フォルトゥーナ艦隊、戦闘行動に支障なし』
『リーベルタースは?』
「おそれながら、継戦不可能ではありませんが、いささか消耗はあるかと」
『そうか』
『おうおう、じゃあここは私が』
「ですが」
『ほ?』
シルビアは一度モニターへ視線を向ける。
そこには、撤退した追討軍とは違い、未だ健在の、
「同盟艦隊であればぜひ、私にお任せいただきたいです」
『ふむ』
『つまり、算段があるってこと?』
「はい」
現状は正面の敵を追い払ったにすぎない。
まだ乱入してきた第三勢力が残っているのだ。対処しなければならない。
『分かった。じゃあ君に任せよう。ただ、今回は自重するように』
『さっきのは見事だったけど、ここで死んだらパーだかんね』
「自重の極みを尽くす所存です」
『ではシルビアさま。我々フォルトゥーナが先行します。サポートを』
「いえ、少し待って」
『はい?』
心配するとかより、一周回って『何言ってんだこいつ?』な声を出すリータ。
それを説得するためにも、シルビアは努めて冷静で意志の籠った声を出す。
「少しのあいだ、この場を私に任せて」
『はぁ。まぁ、いいですけど』
「よし」
ぼんやりした返事ではあるが、了解を取り付けたので問題ない。
彼女は艦橋の階下へ目を向ける。
「イム中尉、国際チャンネル! 同盟艦隊に連絡を繋いで!」
「はっ!」
追討軍の撤退を見送る時間があったからだろうか。
戦闘終了に伴う事後処理もあろうに、
「こちらは戦艦『
『こちらは「地球圏同盟」シルヴァヌス方面軍提督、ジャンカルラ・カーディナル』
『同じくユースティティア方面軍提督、アンヌ=マリー・ドゥ・オルレアン』
『スムマヌス方面軍提督、イーロイ・ガルシア』
意外と早く通じた。
『なんか用か』
「ちょっと、せっかくお堅い口調で話してるんだから合わせなさい。公式な話よ」
『へーへー』
一応ジャンカルラを律するシルビアだが。
この態度なら、問題なさそうね。
内心、すごく安心している。
が、公式かつ重要な話なのだ。
咳払いをして本題に取り掛かる。
「コズロフ元帥率いる艦隊は撤退いたしました。現状、この場に残っているのは我々と貴艦隊のみです」
『うむ』
「ですが、我々にはあなた方と争う意思はありません。また、兵力を鑑みても、そちらの勝機は薄いと言わざるを得ない」
真面目な話と前置いたからか、ある種挑発的な発言にも、特にリアクションはない。
なので彼女も、変に遠慮せず言い切ってしまうことに。
「ですので、これ以上の戦闘は避け、この宙域より撤退するよう勧告します」
シルビアからすれば、彼女たちは大切な友人であり命の恩人。
当然争いたくはないし、どうにか提案を受け入れてほしい。
先ほどのフレンドリーな態度からも見えるように、向こうも敵意はないはずなのだ。
祈るような気持ちで返事を待っていると、
『ふ』
「ふ?」
『ふははははは!! 何を言い出すかと思えば!!』
「な、何よ!」
『素晴らしいジョークです!
『おまえさん、なんか勘違いしてんじゃねぇの!?』
「なんですって!? 私はあなたたちのことを思って! 私たちで争わなくてもいいじゃない! 私は嫌よ!!」
交渉は一蹴された
と思った彼女だが、
『あー、違う。そうじゃないそうじゃない』
「えっ?」
『僕らは最初から君らとやり合う気はないよ』
「それ、って」
思いがけない言葉に、シルビアの腰が浮く。
「私を、助けに……」
『おっと』
『しーっ』
その動きを見透かしたかのように、ガルシアとアンヌ=マリーがストップを掛ける。
『我々はあくまで。同盟軍人として、皇国軍と戦闘したにすぎません。それだけであり、決して政治介入の意図はありません』
「そ、それは、そう言ってたわね」
『君らは反乱軍であって、正規の軍人じゃないだろ? それを勝手に叩き潰すのは立派な政治介入になってしまうからなぁ』
『つーこった。だからオメェらとは最初からやり合えねぇし、目的は果たしたんで』
『これにてお
「そ、そう」
いかに提督と言えど、個人の思惑で軍を動かしたなど、あってはならないだろう。
なのでシルビアに言えるのはせいぜい、
「ありがとう」
具体的な意味は濁した、普遍的な言葉くらい。
対する提督たちは、
『気にするなよ。代わりにリーベルタースもらったから』
「えっ? ちょっと」
『じゃ、さいなら〜!』
『God bless you. Alléluia〜』
『ケバブはヨーグルトソースで食えよ〜』
聞き捨てならない爆弾発言を残して、艦隊を転進させはじめる。
たしかにここまで通ってきた、一応侵攻してきた土地を捨てて帰っても変だが。
なんだかちょっと悔しくて、シルビアからもちょっかいを投げ付ける。
「そういえばアンヌ=マリー!」
『はぁい』
「あなた、『畑が荒れる』とかなんとか言って、外征はしないんじゃなかったの!? エラい宗旨替えねぇ!? えぇ!?」
精いっぱい腐してやったつもりだが。
向こうからは『やれやれ、何を言うてはるのやら』というな鼻息。
『覚えていらっしゃいませんか? 「圧政に苦しむ民がいれば解放に赴く」と、私はそう言ったはずですが? ですので政見放送を見てすっ飛んできたまで』
「ぐっ! その発言は政治介入じゃないかしら?」
『じゃあそうならないように、おまえが勝てよ? シルビア』
ジャンカルラの言葉に、ガルシアも同調する。
『だな。要はそっちが勝ちゃあ、誰も抗議なんかしてこねぇ』
『では、そういうことで〜。あ、そうだ。それにしても』
「何よ」
久しぶりに提督ではなく大学生なんじゃないかというノリに翻弄されたシルビア。
思わずアンヌ=マリーにもぶっきらぼうに返すと、
「『
「あ、うん」
フランス語だけあって、彼女には通じたようだ。
それでも不意打ちに褒められたので、うまく返せないでいると。
その背中を見送りながら、シルビアは
「……ますます、責任重大な戦争になったじゃない」
ため息混じり、艦長席の背もたれへ身を沈めたのだった。
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