第128話 電波も路頭に迷う事態
「ていうのが顛末だよ。私たちがやったんじゃない!」
ケイの話を聞き終えたリータは、
「なんというか、姉妹ですね」
ちょっとズレたコメントを残した。
実は姉の方は別人なのだが。
が、そんなことカミングアウトして話をズラすわけにもいかない。
「トラウト伍長、勲章ものね」
「はっ! 光栄であります!」
「それより」
「それより……」
雑談はその程度にとどめ、話を真面目な方へ戻す。
「その話、信じましょう。ま、話せば長くなるからまた今度にするけど、私たちもあなたたちを信じる、いえ。あの兄を信用できない事情があるのよ」
なんなら、本当はケイたちが暗殺していたとしてもシルビアは構わない。
それでもショーンが皇帝になるより、彼女らにつく方がよっぽどいい。
「お姉ちゃん! じゃあ」
「えぇ、私たちは味方よ」
「シルビアさま。ここは私の
「あら、ダメなの? ショーンみたいな顔がタイプ?」
「まさか」
ジョークの一つもあれば、空気もそれなりに軽くなる。
シルビアは椅子から立ち上がり、妹を抱き寄せる。
「私たちがあなたたちを守る。そしてゆくゆくは、ともに仇を討ちましょう」
「……うん!」
少し涙声になるケイ。
まぁ本当は、
正直皇帝陛下とか追放された記憶しかないから、どうでもいいけどね。
中身梓なので、彼女が震えるような家族愛などこいつにはない。
まだ興味ないノーマンの方がいくらもよく思えるが、これは向こうが拒絶気味。
こちらを変な目で見ている。
「さて、とは言ってもね」
ケイを放すとシルビアはリータに目を合わせる。
視界の端では上書きするようにノーマンがケイに抱き付く。
そこまで嫌か。
半分
「あれだけ大々的に演説かまして、捕縛命令が出ている以上」
「ルーキーナへ向かうのは危険と思われます」
「どうして?」
クロエは一歩右へ出て、後ろに控えるカタリナを手で指す。
「バーンズワース閣下は彼女の兄でいらっしゃいますよ!? それこそ演説されてしまったのなら、閣下が唯一の味方と言ってもいいくらい」
「だからよ」
「えっ」
「ルーキーナは今、人が多すぎる。たしかにジュリさまは味方だし、軍のトップでもあるけれど」
シルビアがため息で一度区切ると、リータがあとを受ける。
「皆さまはシルビアさまや私しかご覧になっていないから意外かもしれませんが。軍は一枚岩でなければ、殿下らの使用人のように皆が忠誠を持ってもおりません」
「あそこにいるほとんどの軍人、指揮官クラスが。道義はどうあれ、皇帝に逆らってまで味方するとはかぎらないわ」
「バーンズワース閣下という味方がいらっしゃる以上に、敵の巣窟です」
「そんな……」
肩を落とすクロエの向こうで。
話に聞くなかではずっと気丈だった、女性には長身なカタリナも縮んで見える。
きっと、兄のところへたどり着きさえすれば、というのが力の源だったのだろう。
それを見ると、なんとかしてあげたいのが人情。
「ねぇリータ。それでも個人的な通話でご連絡差し上げるくらいは、あった方がいいんじゃないかしら」
シルビアが直感的、直情的な時は冷静に考えるのが少女の役目。
リータは数秒間を置いたが、
「その方がいいでしょうね。報、連、相、大事です」
「よしっ」
お墨付きをもらい、早速自身のパソコンを開くが
「……あれ?」
「どうしました?」
「お出になられないわね」
「ふむ」
思わずみんな集まって画面を覗くが、コールサインが空回りどころか
『
二、三度掛けなおしたが、声どころか何も届かない。
「セナ閣下に掛けてみましょう」
「はい」
が、
「ダメねぇ」
結果は同じ。うんともすんとも。
メールも送ってみたが、ブブッと小癪な音で突き返される。
「こいつが壊れてんのかしら」
パソコンを持ち上げ、底面をコンコン叩くシルビアだが。
「まぁ、よく考えたら。あんな放送のあとです。回線混み合ってるんじゃないですか?」
「言われてみれば、そうね」
おとなしく画面を閉じるしかなかった。
「えぇ? じゃあどうするの?」
ケイが焦りのあまり、鼻同士がぶつかるほど顔を突き出してくる。
シルビアは椅子の背もたれを曲げながら頭を引きつつ、
「まぁ、繋がるまで掛けなおしてみるけど。そんな何日も繋がらないってことはないでしょうし」
リータの方へ視線でアシストを求める。
彼女も小さく頷くとケイの両肩に手を置き、宥めるフリをして押し離す。
「どのみち、することは変わりませんよ。ルーキーナへ向かうのは危険です。それにシャトルのスピードでこのまま進んでも、そのうち追っ手に追い付かれます。今はとりあえず、ともにフォルトゥーナへ向かいましょう」
瞬間、
「フォルトゥーナ……」
「どうしました?」
シルビアの脳内で、カチリと歯車が噛み合った。
「そうだわ! フォルトゥーナ!」
「はい?」
「リータ。他の回線はパンクしてても、基地の軍用サーバなら通じるわよね?」
「それは、はい、まぁ。でもあれは方面軍固有のもので、元帥閣下には連絡できませんよ?」
残念ながら、という顔をする少女だが。
狙いはそこではない、というようにシルビアは首を振る。
「いいのよ。基地に連絡が取れれば」
「はぁ?」
さっきから要領を得ない返事のリータと、声には出さないが似た表情のケイたち。
それらをやや置き去りにして、彼女はふふんと胸を張った。
「この際『ジュリさまに』とかケチくさいこと言わないで、派手にいきましょう」
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