第117話 こんな形でなんて
間髪入れずに響く銃声はフルオート。
従業員の悲鳴も響く。
「きゃあっ」
「何事ですか!」
今にも駆け出そうかというアンヌ=マリーを制しつつ、ジャンカルラは歯
「やっぱり地獄からの観光客だったみたいだな!」
「どういうことですか」
「怪しい団体客がいたんでね、応援を呼んだんだ。しかし即衝突とは、血の気の多い連中じゃないか」
ジャンカルラが腰から、アンヌ=マリーが太もものホルスターから拳銃を抜くと、
「まさかこちらへ来るとは」
「またシルビア狙いか。ロビーで見られてたな!」
二人組がこちらへ向かって走ってくる。
サングラスを掛けた黒髪の女。黒のショート丈タンクトップ。その上に黄緑のシャツを羽織り、ボタンではなくヘソの上で結んで閉じている。ボトムスは白い7部丈のスキニーパンツ。
こちらは拳銃を持っている。
もう一人は麦わら帽子の小柄な女。空色のワンピースはスパッツが見えるほどの丈。
こちらは右手にサブマシンガン、左手に長方形の異様に長い箱。
拳銃はまだいい。
が、対人制圧力の高いサブマシンガンに得体の知れない装備。
「マズいぞ!」
ジャンカルラが叫ぶと同時。二人がシルビアを引っ張って花壇の裏に飛び込んだ直後。
贅沢なくらいに絶え間ない銃声が響く。
「ひいい!」
「シルビア、拳銃は携帯してるよな?」
サブマシンガンの音が途切れると、提督二人が花壇の影から対抗する。
数発撃ち返すとまた隠れ、サブマシンガンの嵐。
「ひええ」と庭師のおじいさんが逃げていく。無事で何より。
「してるよな!?」
「どうだったかしら、いひひひひ」
「笑ってごまかすな! ぶん殴るぞ!」
「軍人の自覚が足りていませんこと!」
総掛かりでなじられるが、元々ホテル内を「ちょっとそこまで」の予定。
あまり油断を怒らないでほしい。
「じゃあいい! ここは僕らに任せて、君は隙を見て逃げろ!」
「そんな!」
「マフラー持って逃げる人がいないと、汚れたらどうするんですか!」
「いや、まぁ、たしかに」
「合図したら走れよ!」
言い終わるや、フルオートの銃声が途切れる。
二人が顔を出し援護射撃するとともに、
「走れ!」
慌てて花壇から飛び出すシルビア。
そのまま建て物内へ飛び込もうと駆け出した瞬間。
「シルビアさまっ!」
「えっ?」
思わず足が止まる。
呼び方の問題ではない。親皇国派でも、同じような呼び方はするだろう。
問題は、
「バカっ!」
アンヌ=マリーも花壇から飛び出し、彼女を庇いに来る。
サブマシンガンを持っていた小柄な女。
敵への射線がシルビアに被り掛けた瞬間、弾をばら撒く獲物を投げ捨てる。
と同時に、左手の長い箱を地面に落とす。
元からすぐに中が取り出せるよう、留め具が掛かっていなかったのだろう。衝撃でパカッと割れる。
そこから素早くつかみ出されたのは、
2メートルは越すであろう
それを悠々担ぎ上げる女、いや、
少女こそ
「リータ!」
「そこのマフラー! どけぇぇぇっ!!」
そう、呼び方以上に、忘れるわけがない声。
アンヌ=マリーがシルビアのリアクションに気を取られた隙に。
どうやって税関通したのか、現地調達可能なのか。
リータは一気に詰め寄り、ハルバードを振り下ろす。
「くぁっ」
かろうじて斧部分をバックステップで避けるアンヌ=マリーだが。
槍部分のリーチが活かされ、拳銃を叩き落とされる。
「アンヌ=マリー!」
すかさずジャンカルラが援護しようとするが、
「うわっ、くそっ!」
「美人を放っておくのは感心しないな?」
サングラスの女からの射撃で首を引っ込める。
そのあいだにも。トドメとばかりに振りかぶられ、アンヌ=マリーの肩口を狙うハルバード。
丸腰でなす
「お借りします!」
ちょうど近くに、おじいさんが残していったシャベルが。
それを素早く拾い上げ、今まさに振り下ろされた刃をギリギリ払い落とす。
そんな目まぐるしい女の戦場で。
一人、硬直し続ける人物がいる。
「あ、あなた」
そう、シルビアである。
ジャンカルラに発砲した女の、またしても聞き馴染みのある声。
サングラスでは隠せない、左だけニヤリと上がった口角。
「セナ閣下!?」
「ハァイ、バーナードちゃん。白馬の王子さまだよ、っと」
気さくに手を振る閣下だが、ジャンカルラからの反撃がきてガゼボの壁に身を隠す。
そこから素早く鉛玉を応酬し、お互いに身を隠した状態。
「セナ!? おまえは『半笑い』だな!」
「いかにも! 有名人は辛いねぇ!」
「去年は世話になったな!」
「またおいでよ! お菓子と小遣い用意しとくぜ」
「それは助かる! 今持ち合わせが少なくてね。手土産はこんなんでいいかな!!」
弾丸は、女性には不釣り合いだがジャンカルラなら似合うマグナム弾らしい。
「うえっ」
ガゼボのほぼ手すり用な壁ごとき、
リアクション的に直撃はしなかったようだが、明らかに有利不利ができたか。
「こらー! こちとらレディだぞ! もっと気の利いたプレゼント寄越さんかい!」
「血反吐を吐いてルージュにするんだな!」
「もっと違うものがほしいんだけどな!」
「薔薇のコサージュなら胸に飾ってやるぞ!」
片や、弾の節約も兼ねて舌戦。
片や
「ぇえいっ!!」
ロクな会話もない近接戦。
横薙ぎの一撃が、シャベルの木の柄を刈り取る。
が、ハルバードが振り切られた隙にアンヌ=マリーも踏み込み、強烈な上段蹴り。
それをリータは振り抜いた勢いで回転するように、石突きを繰り出して受け止める。
遠くではいまだ銃撃戦の音もする。
両陣営が命のやり取りをするなか、
「ど、どうして、どうしよう」
気が付けばシルビアは、どちらにもどうすることもできなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます