第87話 極秘任務
『
ケイ・アレッサンドラ・バーナードだよ。
突然の手紙、驚かせちゃったかな?
でも、今からそれ以上に驚かせることになるの。
どうか最後まで落ち着いて読んでほしい。
というのも、今回の話は内緒、外に漏らしてはいけないことだから。
特に元帥には。
軍人のお姉ちゃんには、さぞ驚いてビビり散らして困惑する言葉だと思う。
でも、これは外交と平和において必要なことなの。
って、こっちの事情ばかり並べられても、ますます困るよね。
本題に入るね。
実は今回の戦闘詳報を受けて。
艦隊が受けた被害に、相次いだ方面派遣艦隊司令官クラスの戦死。
以上を
疲弊した軍組織を一から組み直すためだそうです。
そのためにもこれ以上の戦闘を避け、力を蓄える内向戦略に集中する必要があります。
でも、その一方で。
元帥格が継戦の方向で固めていることもキャッチしています。
特にコズロフ閣下は、タンパク質の代わりに執念と意志の強さでできているようなお方。
そうやすやすと受け入れはしないと思う。
よって中央では彼らを納得させる既成事実として。
同盟側とこの戦線を一時的に手打ちとする
その使者として、私は現在密命を帯び、この星まで来ています。
平和の使者として。
でも一つ、問題があるの。
私はあくまで皇室の人間。軍人じゃない。
私だけ出席しても、向こうは「軍部も含めた総意なのか」と疑うと思う。
そこで、現役軍人のお姉ちゃんが同席してくれれば。
向こうも受け入れやすいんじゃないかな、って。
お願い! どうか力を貸して!
上官たちを裏切るような形で心苦しいとは思う。
でも私も、今回のミッションは絶対に成功させなきゃならないの。
だって勅命なのだから。
それに、長い目で見れば絶対軍にとってもプラスになるはず。
私は今、港に停泊してる郵便船にいます。
軍サイドに気付かれてはいけないので、こうして潜伏しています。
どうか協力してくれるなら、こっそり来てください。
いえ、せめて一度、話だけでも聞きに来てください。
お願いします。
ケイ・アレッサンドラ・バーナード』
「ケイ」
正直、冴えていない頭にとんでもない規模の話が来てしまった。
どうしていいか分からなくなるシルビアだが、
『せめて一度、話だけでも聞きに来てください』
「そうよね。元帥閣下に話すにしても、話さないにしても。まずは聞かないと判断できないわ」
カークランドは急ぎの用と。
プレイヤーとして助けられ、この世界に来てからもボカージュで助けられ。
なんなら
「シャトル乗り場へは、タクシー捕まえればいいわよね」
放っておくことなど、できない。
小型シャトルで宇宙へ上がると。
軍港衛星、巨大な軍艦がひしめく端に。
小さな白い船が見える。
場にそぐわず居心地悪そうなあれこそ、件の郵便船だろう。
「Gブロックで下ろしてくれる?」
「はい」
なるべく近いロータリーを指定し、ドックの廊下を進むと、
「あれ、かしら?」
郵便船とドックの渡し口に、
なるほど、カークランド少佐の言ってたとおりね。
軍人にも郵便局員にも見えない、立派なスーツの男が立っている。
シルビアが近付くと、向こうもこちらに気付いたようだ。
「シルビア殿下でいらっしゃいますね?」
「えぇ」
「ケイ殿下がお待ちです」
促されるまま船内に入る。
郵便船だけあって、積荷以外のスペースはあまり広くはない。
それでも一応、クルーが食事をしたり談笑するフロアくらいはあった。
しかし、妹の姿はない。
「ケイは?」
「『大任に息が詰まる』とのことで、少し外へ。お呼びしてまいります」
「そう、お願い」
急ぎの用と言っていたくせに。相変わらず奔放な娘である。
「まったく」
ごめんね? というノリで両手を合わせて笑う顔が頭に浮かぶ。
その向こうにオレンジと太陽(思えば、実にキャラに似合うチョイス)も浮かんで。
蝋どめのデザインで、シルビアはもう一通手紙があったことを思い出した。
「読んでるうちに来るでしょ」
内ポケットから取り出した封筒。なんとなくこちらのスタンプも確かめてみると、
「あら」
検閲時に割られていたせいで気付かなかったが、
「これもあの子からじゃない」
こちらもたしかに、『オレンジと太陽の意匠』。
「カモフラージュ、じゃないでしょうけど。普通の手紙も送ってきてたのね」
その内容も実に普通のことであった。
軍部で活躍したことにより、シルビアに対する皇帝の怒りが収まりつつあること。
そのためようやく手紙を送ってもよくなったこと。
とりあえずのご機嫌うかがいと、ほしいものがあれば送る旨。
クロエが寂しがっていること。
そんな彼女も。水面下で第六皇子ノーマン・ライナー・バーナードとの縁談が動いていること。
だからさっさと戦闘を終わらせ、いつでも戻ってこられるようにしろとの無茶振り。
ルーキーナで美味しいものやキレイなものを見つけたら、必ずお土産にすること。
「実にらしい手紙だこと」
先に読んだ手紙の緊迫感とは打って変わったこと。
おめでたいニュースと、それが『水面下』と本人は知らなさそうなことへの苦笑。
ちょっと意地悪いが、バーンズワースをめぐるライバル脱落の予感。
「よりによって、ショタ枠のノーマンとねぇ。まぁ、クロエが思ったよりグイグイ行くタイプだったし。お似合いじゃないの?」
それらにクスクス笑っていると、
「あら?」
手紙を最後まで読んで、わずかな違和感が彼女の頭をよぎった。
そこにあるのは、
『Kay Alessandra Bernard』
サインである。そこに誤字脱字があるとかではない。
「ん……」
それを本文と見比べる。
すると明らかに本文とは筆跡が違う
のも、さしたる問題ではない。
上流階級の人間が手紙を書く際、字のきれいな者に代筆させるのも普通のこと。
シルビアが気になったのは。
彼女はポケットにしまっていた、もう一通の手紙を取り出す。
こちらも本文とサインの筆跡が違うのはいい。
が、問題は双方のサイン。
パッと見、筆跡に違いはない。当然である。ここだけは本人が書いているのだから。
そう、同じ人物が、同じように書いているはずなのだ。
「片方だけ、インクが滲んでる……」
今し
シルビア自身は右利きなので伝聞でしか知らないが。
どうやら横書きは左利きの時だけ、手の位置の関係でこうなるらしい。
「違う手、いえ。違う人間がサインしている……?」
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