第83話 ボコボコノーガード
「
残骸に偽装された(するまでもなく中破だが)『
シルビアはおかしくなったように喚き立てる。
実際この段階までくると、それしかすることがないのだから。
「GOGOGOGO!!」
カークランドも競馬ファンみたいに観測手の席の背もたれを叩く。
GOったって艦を動かしているわけでもないのに。
動かしていないので、当然ロッホも暇。
「ホッホーーーーーッ!」
シャドウボクシングを繰り返す。
この連中は叫べば砲撃の威力が上がるとでも思っているのか。
一人ヘッドホンを抑えて状況把握に務めるエレだけが、少しイラっとした表情。
しかしテンションを上げるだけのことが起きているのは事実である。
モニターでは同盟軍艦隊が次々被弾。爆炎(厳密にはエネルギーの暴発で炎ではない)を撒き散らす。
シルビア自身は見ていないが。
おそらく味方艦隊が受けたのも、こんな光景だったのだろう。
「はーっはっはっはっ!! まえの会社に剣道四段の同僚がいたけどね! 得意なところは打たれるところなのよ!」
「まえの会社……?」
ニセ皇女丸出しも気にしない彼女だが。
何も大戦果にはしゃいでいるばかりではない。
「砲撃アラート!」
「敵!?」
「いえ、味方の流れだ……左舷前方に被弾!!」
「ぎゃああああ!!」
足を止めて、四方八方からやたらめったら撃ちまくる作戦。
敵味方ない。全員危ない。皆殺し(ガチ)。
それだけでなく、リータに散々忠告されたように。
捨て身で危険な戦法なのだ。
今はまだいいが、相手が撤退せずに反撃してきたら。
こちらがミッションを終え撤退する時、追撃してきたら。
のちのちのことを考えたら、ラリっていないとやってられないのだ。
「アンヌ=マリー! そっちの状況は!」
『鏡を見ればよろしいかと!』
『
まだ戦場は先であると油断していたところに伏兵。
正直ジャンカルラの脳裏には、『しまった!』という思いがなくはない。
が、悔いても仕方ないというか、悔いたなら活かす。
まずは落ち着いて、ともに右翼艦隊を形成する彼女へ連絡を取る。
アマデーオの時のように、助けられないどころか殺し合う形となってはいけない。
「このままだと全滅だ!」
『それもミサが終わるよりまえに!』
が、オウム返しの戦法であるならば。
自分で考えた戦法ではないと言え、皇国軍よりは見識に一日の長がある。
何より向こうがどうしようと、ここは同盟軍の『庭』。
地の利を念頭に置けば、有利に立ち回れるのだ。
「とりあえず真っ直ぐ突破しよう! ここで反撃は無謀だ! 一刻も早く安全圏へ!」
『了解! “
「フランス語は詳しくなくてね!」
反転して引き上げるよりは、真っ直ぐ突っ切った方が速い。
皇国軍は突っ切っても先はステラステラ。挟み撃ちされるのでできない選択だったが、同盟が気にすることはない。
これなら被害は最小限で抑えられる。
また、戦場で大事な一手二手先。
「同盟艦隊、最大戦速! 『サルガッソー』を突破する模様!」
「おぉ、堪らずって感じだな!」
『
やや冷静になったカークランドでさえ、
「これは大戦果ですね。しかも向こうが逃げるのなら、反撃を気にしなくていい」
この様子。
だが、シルビアはもう一つ冷静だった。
おそらく、あらかじめ危険な事実を知らされていたため、敏感だったのだろう。
「マズいわ!? 艦隊、退却! 退却ーっ!!」
「艦長!?」
さっきまでのノリノリから豹変。副官もテンションの差に驚愕している。
「ここでですか!? もっと打撃を与えるチャンスだというのに!」
「何言ってるのよ! 連中が先に背後へ抜けたら、私たちどうやって帰るの!!」
「あぁっ!」
彼も優秀な人間なのだろうが、つい夢中になって見落としていたようだ。
カークランドに限らず、ここまで両陣営とも、結局敗因はそこかもしれない。
「そりゃ戦果が多いに越したことはないけど! あとあと正面衝突で不利を取らないくらいに減らせてたらじゅうぶんよ!」
先日は『勝つためなら捨て身でもやる』と啖呵切ったが。
死んでいいとは思っていない。命は惜しい。
カーディナルの判断が正しかったように、シルビアの判断も正しい。
が、
「反転! 最大戦速ーっ!!」
「出ねぇぞ!?」
「なっ!?」
振り返るロッホの目は血走っている。
「中破状態から修理してねぇんだ! 膝が悪いまんまだぜ!?」
「しまったああぁぁ!!」
なんなら彼女も、見落としがあったようである。
さらに運が悪いことに。
この女は、今度こそ見落としをしなかった。
「敵艦隊、反転!」
「おおっ、引き上げるのか!」
「助かった!」
「ラングレーくん!」
「はっ!」
『
手汗を拳に握り込む、ジャンカルラ・カーディナル提督である。
相手がこれ以上の攻撃を諦めたことで、突破の必要はなくなった。
が、彼女はむしろ忙しくなる。
「残存した戦力の半分は味方の救助へ! 残りの半分は追撃を! タダでは返すな!」
「了解しました!」
「アンヌ=マリー!」
『
無線の相手に吠えかけてはいるが、クルー全員に聞かせるよう声を張る。
「あのフザけたバナナボートが見えるか!?」
『はっ? ばなっ?』
「ボディにデカいノーズアート描いてるやつだ!」
『いえ、ここからは見えませんが。それが何か?』
指示はされていないが、優秀なクルーがモニターで映像をアップにする。
「マジでいるな、バナナ」とラングレーの呟きが聞こえる。
アンヌ=マリーには見えるまいが、ジャンカルラはそれを指差す。
「そいつだけ、他の艦より反転が早かった!」
『艦隊へ通達されるより先に指示が通っている、ですか』
「そうとも!」
『つまり!』
「やつがこのフロアのリーダーだ! 叩き潰すぞ!!」
『いいでしょう!』
彼女は無線を握り締めたまま、ラングレーに目配せ。
両者は目を合わせ、深く頷き合う。
そのまま彼は提督の意図を汲み取り、声を張る。
「これより本艦は追撃戦に入る! 照準、バナナ野郎!!」
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