第71話 要は連続集団リンチ事件
皇国艦隊左翼。旗艦『
男性オペレーターの声が響く。
「反撃、来ます」
「各員、衝撃に備えろ!」
艦長席の横に立つイルミ。彼女が言い終えるのが早いか、閃光のシャワーが降り注ぐ。
激しい衝撃は遅れてきたのか、あまりの光量に感覚が少し麻痺していたのか。
「うおおぉぉぉ!!」
「きゃあああ!!」
その揺れで無理矢理叩き出されるように悲鳴がこだまする。
イルミですら声は出さずとも、艦長席の背もたれと手すりに手をつき堪えるなか。
一人どっかり座って無表情のバーンズワース。
「くっ」
その事実に彼女は呻き声が出る。
普段陽気でからかい好きの彼が、こんな静かに、いや。
陽気な時でも声を上げたりはしない、案外落ち着いた若者である。
それがこのような、殺されそうな段になっても、殺す段になっても。
変わらないのだ。普段過ごすように戦争をしている。
それが周囲に安心を与えるのは確かだが、イルミはどことなく不気味にも感じる。
もしかしたら、彼が元帥に上り詰めるほどに勝利するのは、天才でもなんでもなく。
同盟は人間と戦争させてもらえていないだけじゃないか?
そんなことすら思ってしまう。
バカな。そんなことを考える暇があるなら、戦争に集中しろ。くだらないことを考える頭もなくなるぞ。
邪念を払わんと頭を振るのも、振動が代わりにやってくれる。
やがて収まると、彼女は腕を振るって、平時よりテキパキと指示を飛ばす。
当然と言えば当然だが、毎回こうやって意識付けさせてくれるのは助かるか。
「被害状況知らせぇ!」
「直撃なし! 損害は1パーセントにも満たないレベルです!」
「艦隊全体では!」
しかし、オペレーターが答えるまえに。
バーンズワースが静かに呟く。
「ミッチェル少将」
「は、はっ!」
「勝ったね」
彼はここにきて、イタズラっぽく笑った。
イルミの心臓がギクリと跳ねる。
ラブコメのような理由ではない。
「直前の報告では920隻だったかな? それでこの程度の反撃なら、先制パンチが効いたか練度が張り子か」
「……あなたは」
「何?」
「あっ、いえ」
今の光景だけでそれを見て取れるというのか
とは、今さら問うまい。
が、
あなたはやはり人間ではないのではないか?
悪魔か何かなのではないか?
とすれば、それに魅入られた私は……
が、その問いとて答えはもらえない。
バーンズワースは席を立ち、高らかに指示を飛ばす。
「第二艦隊全艦に通達! エポナ艦隊は取り舵5! 進路を左端の艦隊に付ける! 残りの艦隊はそのまま突撃!」
「はっ!」
「砲撃の波が『右左右』だった。右の艦隊は極めて練度の高い部隊と低い部隊が混在している。対して左はそこそこの練度の一枚岩と見る」
イルミは事前に受けていた情報を反芻する。
たしか正面の敵艦隊は、左にアマデーオ提督の『
カーディナルといえば、敵方のシルヴァヌス艦隊司令。
なるほど、カーチャと同じで、麾下が間に合わず寄せ集め部隊なのだろう。
逆にアマデーオはソラヌス艦隊。距離的に、そっくりそのままの可能性はじゅうぶんある。
言ってしまえば、あらかじめ立てられる予測ではあるが。
予測は予測にすぎない。戦場における情報は『確実なものを早く』。ファストフードみたいなものである。
だから彼は最初の一撃で確定づけるべく、あれだけ静かに見つめていたのだろう。
「コズロフ閣下は『言い訳のしようもない力の差』をご所望だったな! 正規品は正規品同士殴り合って、連中の士気をへし折ってやろうじゃないか!」
「はっ!」
「艦長!」
「了解! 取りー舵ィ5! 艦載機、
『
『
シルビアの号令一下、エレとその周辺が無線に向かって騒がしくなる。
「『
「照準合わせぇ!」
バーンズワース麾下、エポナ艦隊。
そうそう他艦隊と軍備の質が違うでもなかろうに。何故その突撃力と破壊力が、特別取り沙汰されるのか。
それはもちろん、名にし負う練度と命知らずさもある。
が、それ以上に。
直接的なのはそのドクトリン。殺意の高さにある。
「
一瞬にして、戦艦三隻分の砲火が一点に集中、いや、殺到する。
緑の流星は見る見る膨れ上がり、大きな超新星爆発へと生まれ変わる。
「『
「次! 一つ
この世界における軍艦の主兵装は、ご存じのとおり粒子エネルギー砲である。
であれば当然、敵から飛んでくるのも同じもの。
装甲に対策が施されているのも、これまた当然のこと。
一発当てれば大爆発、とはいかないようになっている。
では沈めるためにはどうするか。
単純なこと。沈むまで当てる。
一発当てても平気なのなら、十発当てるので死んでいただく。
十発当てるのに時間が掛かるのなら。
一隻に対し二隻でも三隻でも、囲んで叩いて手早く潰す。
こうすることで、確実に敵の数を減らす。被害甚大とか中破と『戦えるのかどうか微妙な0.5』ではなく。
揺るぎない『マイナス1』を取る。
たとえば実際はこうもいかないが、ターン制バトルのゲームがあったとして。
5体の敵を5ターンで全滅させるとしよう。
1ターンに一人減らすのと、5ターン目に一斉に仕留めるのでは、結果は同じだが。
経過としては全然違う。前者はターンを追うごとに敵の反撃の数が減る。
そのための、迅速なまでの『マイナス1』の積み重ね。
何より単純に、戦いは数の多い方が有利。そんなの常識。
着実に確実に丁寧に、その差を広げて好循環を産んで。
「
あえて技術論に話を戻すなら、複数の艦が行進間射撃を正確に集中させるところか。
縁日の射的なんかで、動く的を自身も走り回りながら撃つ。
そう考えたら、いかに難しいことかお分かりいただけるだろうか。
まぁなんにせよ、大雑把な思考のようで、やることは理知的で地道。
いかにも人を喰った元帥閣下本人のようなやり口なのである。
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