第48話 幼女は世界を救う

「そういやさ、謝罪は『このまえ来た』っつったじゃん」


 運ばれてきたリータとシロナのウェルカムドリンクを受け取りながら。

 カーチャはバーンズワースに話を振る。


「言ったよ?」

「じゃあさっきはなんの話してたんさ」

「あー」


 彼は少し上に視線を向けると、


「なんだっけ?」


 お約束みたいな抜け加減。イルミへ話を振る。

 すると彼女はムッと腕を組み、



「口説かれてましたね」

「はあっ!!??」



 シルビアの絶叫に、またも会場の視線が集中する。

 先ほどまでは気にしていたが、今の彼女はそれらを凌駕する存在。

 ちなみにリータはグレナデンシロップの風味を堪能。いつもの呪文すら放棄。せっかくのパーティーだもんね。

 シロナも割り込む勇気がないので、話は大人たちで加速していく。高校生みたいなノリで。


「どういうことですか!!」

「ウッヒョーッ!」

「そんなこたないでしょ」

「いいえ。あれは口説かれていました」

「ミチ姉、なんか怒ってる?」

「怒ってませんけど?」

「怒ってんじゃーん☆」

「お静かにセナ閣下」

「口説かれてないよぉ。なんか他愛もない質問責めだったよ」

「口説かれてるじゃないですか!!」

「口説かれてるでしょう」

「ウッヒョーッ!」

「ウェイター! ソルティドッグ一つ!」

「まだウェルカムドリンクの時間です」


『女子は気になる男子を質問攻めにする』とかなんとか。その程度で口説くは言いすぎだが。

 これは是非ともガッツリ事情聴取し、塩を撒きたいシルビアだが。


 急に荘厳なオーケストラが響き渡る。

 それと同時に、彼女たちが入ってきた対角線上。玉座がある壇上の端にある扉。

 そこから、皇太子や愛娘、皇后や寵姫を伴い、皇帝陛下がご入場。


「あっ。少し静かにしないとね」


 これ幸いと、バーンズワースは袋叩きの包囲戦から逃げ出した。






「では今年も、宗教の壁はともかく。クリスマス休戦からなる、人類伝統の安息日を楽しんでもらいたい」


 皇帝陛下のスピーチは、校長などよりよっぽど短かった。


「カンパーイ!!」


 整列しての静聴はものの数分で終わり。すぐに自由な立食パーティーとなったのだが。


「……」


「しかしバーンズワース閣下。国家を動かしましたなぁ」

「そうしたかったわけではないのですよ? ねぇ、ミッチェル少将?」

「御意」

「ところでですな。ウチには18になる孫娘がおりましてな」


「セナ元帥。今年、後半は特に大車輪のご活躍でしたな」

「軍人にはよくあることです。普通と申せましょう」

「それはまた。あぁそうだ、今度おじいさまにですな」


 閣下たちは身分があり立場があり、付き合いがある。

 特にこういった普段会わない人に会える場は、どうしたって忙しい。

 そこにべったり何人もくっ付いていては、お付きといえど邪魔ですらある。


 結果、シルビアとリータは壁際で暇することに。


「ふっふっふっふっ」

「そんなにたくさん取って、食べ切れるの?」

「『食える時に食っとけ』が軍人の常識、食い溜めは必須スキルですよ?」

「ちなみにこういう場では、ローストビーフ集中狙いが勝利の秘訣よ」

「皇女なのに食べ放題客みたいなこと言うんですね」


 分かりやすいソーセージから生ハム製フラワー。何やら野菜のパテまで。

 リータの皿には料理が山盛り。一皿2〜3種類とか、料理は温かいのと冷たいの同じ皿に盛るなとかあるが。まぁお構いなし。

 これならシルビアがマナーを教えられたとしても、食欲に負けていただろう。

 なんなら壁際なのをいいことに、床に座って皿を並べそうな勢い。そこまでいったら、さすがに阻止しなければならない。

 気が気でないことを考えると、案外暇ではないかもしれない。


 と、そこに。


「ごきげんよう、楽しんでいらっしゃいますか?」

「あ、あなたは」


クロエお嬢さまふほへほほっはま


「食べるか話すか、どっちかにしなさい」


 揺れるミントグリーン。クロエ嬢である。

 おそらく皇族貴族政治家連中は首都で普段から会っている。軍人は言うほど話すことがない。

 そんなんで会話の渦から弾かれたのだろう。

 彼女はリータの皿を見つめている。何か言われるのではと身構えるシルビアだが。


「さすが軍人さん、たくさん食べるんですねぇ」

「おいしいでふ」

「いいなぁ、私ダイエット中で。あんまりたくさん食べれないんですよね」

「そんな細いのに。アイドルか即身仏にでもなるつもりですか」


 節制している相手の前でミートローフの塊を頬張る少女。

 普段は気配り目配りの子だが、胃袋優位らしい。


「リータ、控えなさい」

「いえ、そうじゃないんです!」


 両手を振り、慌てて割り込むクロエ。


「自分が食べれない分、人が幸せそうに食べるのが好きで」

「食が細くなった老人みたいなこと言うのね」

「それに……」

「それに?」



「ハムスターみたいでカワイイ!」

「そう! カワイイ!!」



 主人公と悪役令嬢、歴史的和解がなされた瞬間だった。

 リータをダシに、頭越しに。

 まぁ歴史的に見ても、列強が植民地で話をまとめるのはよくある。



 その後二人は、


「これもおいしいですよ! あーん!」

「あの、もう、そろそろお腹いっぱい」

「もっと食べてもっと食べて、リータ」

「あんたはさっき『食べ切れるのか』とか言ってたでしょ!」


 動物園の餌やり体験の様相を呈し、


「おーいバーナードちゃんロカンタンちゃん! 今から軍関係者で集まってさ! 場所変えて二次会なんだけどさ、あれ?」

「おやミチ姉、あれはどうしたことだろう」

「ロカンタン中佐が戦死していますね」


「あの、シルビアさん?」

「何かしら?」

「軍関係、私もそちらにお邪魔していいでしょうか? 私、お二人ともっと仲良くなりたいです!」

「もちろん! 私に権限ないけど、きっと閣下たちも歓迎するわ!」


「あいつらの仕業か」

「二次会で軍法会議かな」

「シーガー氏もですか?」


 二人はもう、すでに仲良くなっていた。

 元々主人公を嫌う悪役令嬢から、プレイヤーに中身が変わっているのもあるが。

 やはり幼女は世界を救う。


「勘弁して……」

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