第23話 憧れのマイホーム(?)

 その後は


「数日浪費したからね! 一気に落とさないと干上がっちゃうよ!」


 余勢を駆って敵基地ネリオー星へ積極攻勢。

 提督の戦死によって、逃げ込んだ残存艦隊に守備隊も逃げ腰及び腰。


「さぁ、仕掛け」

「るまでもないですよ」

「むぅん」


 閣下がシロナに制されるほど。渡されたジンの水割り片手に、モゴモゴしているほどだった。



 それから二週間ほどは敵拠点を潰して周り。


「ま、これだけやれば遠征も上々。次のユーノー基地は結構遠いし。今後は敵も、編成したらすぐに侵攻とはいかなくなるね」


 ようやく一時ピリオドの運びに。

 逆に言えば、それほど巨大ではないとは言え。

 星一つが一ヶ月せずに落ちた。


「んー、喉につかえた小骨が取れた! これも初戦で相手を叩けたからだね。君たちの戦果だよ」

「キャンディは結構ですわ」

「Oh, no」


 シルビアとリータも、最大級の賛辞をもっての『シルヴァヌス戦役』となった。






 それから二日後のことである。

 元帥以下艦隊の一部は、いまだ最前線ネリオーに逗留していた。


 いわゆる撫民ぶみんというものである。

 戦争に勝って領土にしたからといって、市民の内側までは勝ち取っていない。

 むしろ、慣れ親しんだ支配者層イデオロギーから血生臭い方法で変わったのだ。反感の方が大きい。

 当然言うことは聞かず、治安は悪化する。自領と思って油断すると、命の危険もある。


 そこを教化し、受け入れられるためにも。

 誠意として閣下自らが市民の世話に手を焼き。兵士が我が物顔で戦争犯罪へ走らぬよう統制し……。

 とにかくカーチャは今、この世で一番忙しい人になっていた。


 それに付き従ってネリオーに残り、かといってすることもなく。

 シルビアが治安維持のための警邏

 という名目で、リータを観光デートに連れ回していた時のことである。






「やぁいらっしゃい。まま、細かいことはいいから座って。キャンディも好きに取ってもらって」


 ネリオー行政府内。仮置きの元帥執務室にて。

 広場でリータにジェラート奢って「アン王女♡」とか喜んでいたシルビア。ムードも何もなくインターカムで呼び出された。


「マコちゃんお茶淹れてくれぇ」


 カーチャは何やら、大量の書類を漁りたおしている。アニメやマンガでよくある光景。

 こういうのを見るたび、いったいなんの書類をしているのか気になるシルビア。

 もしや制作者側が、非戦闘時の将校が何してるか知らないとかで。

『とにかくエラい人ですよ忙しいですよ〜』アピールとして。

 そういう実態のない仕事ではないか、とすら邪推するが。

 過去に『自衛隊で出世した友人が、シ⚪︎ア大佐書類しなさすぎっつってた』という話を聞いたことがある。

 だからこれもなんか、意味がある書類。実際にある職務。


 のんきなことを考えているうちに、


「あぁ、あったあった」


 カーチャは学位記のような青いホルダーを発掘する。


「お茶で〜す」

「今からすることあるし

「えっ」

「そのまま待機」

「えぇ〜……」

「淹れるの遅いんだもん」


 要領が悪いとはいえ、まぁまぁ雑な扱い。

 だが同情している場合でもない。わざわざ呼び出されてあの書類。

 まさか学位記や卒業証書でもなければ、警察や消防の感状とも思わない。


「まぁ私も忙しいんで。略儀でやらしてもらうけど」


 閣下は卓上調味料でも寄越すように、気軽にホルダーを手渡す。

 どうやらもう一つあるらしく、それはリータの方へ。


「開いていいよ」


 促されるまま、中身をあらためると。


「辞令だよ」


 もう別の書類へ取り掛かったカーチャ。片手間のように呟く。

 が、続く言葉は宣言するようにはっきりしていた。


「シルビア・マチルダ・バーナード少尉。今回の戦役における、君の戦果を鑑みて」


 さすがにここは大事なのだろう、自然と目が合う。



「大尉への特進。また、それに伴い戦艦『私を昂らせてレミーマーチン』から軽巡洋艦『灰色狐Gray fennek』へ移乗。同艦艦長としての勤務、周辺宙域の哨戒任務を命ずる」



「はっ!」

「同様に、リータ・ロカンタン少尉も。大尉へ昇進、かつ『灰色狐グレイフェネック』副官の任を与える」

「はっ!」


 返事をしたはいいが。

 こんな簡単に二階級特進(なんか戦死したみたい)で艦長に。


 ちょっと出世速すぎない?


 そう思わなくもないが。

 何より辞令を下した、目の前の元帥閣下。バーンズワースもそうであるように、ゲーム世界の見栄えとして。

 彼女ら自身が誰よりスピード出世の象徴。この世界ではおかしくないのだろう。


「ま、この程度の辞令は、各方面軍元帥の裁量に任されてる。いちいち本国に伝わらないから、雲隠れがバレたりはしないよ。マコちゃんお茶ちょうだい」

「やっと腕が解放される〜」


 ずっと律儀にティーセットを持っていたシロナ。


「テーブルにでも置いときゃよかったのに」

「はぅっ!?」


 やはり要領が悪い。

 カーチャは紅茶をひと啜り。


「ま、中央じゃバーンズワースくんも宰相ドノをガン詰めしてるだろうし。コソッと移った所属先。そこから戦線も拡大、その最前線。哨戒任務で基本留守にしてりゃ、誰も君の行方にたどり着けないさ」


 閣下が直接守れる範囲から外れることへの、心理ケアを述べているようだ。

 本来ならもっと小型で、扱いの簡単な艦でキャリアを始めるところ。

 数段飛ばしの軽巡スタートも戦闘能力、いざという時の防衛手段をくれたのかもしれない。

 最近戦争そのものに身を投じて忘れがちだが、シルビアには暗殺の脅威があるのだ。

 あったのだ。そういえば。


「だから、安心して励んでくれたまえ」


 考えることはいろいろあるが、とりあえず。

 せっかく閣下が微笑んで門出とおっしゃるのだ。シルビアも明るく返さねば無作法というもの。

 彼女の大いなる目標へつらなる出世街道の、本格的なスタートでもあるのだから。



「聞いたリータ!? 私もついに、一国一城のあるじよ!? 憧れの、二人だけのマイホームよ!? 愛の巣よ!? ふおおおお!!」



「いや、ちゃんと乗組員乗せて?」

「バーンズワースくんだけの発作じゃなかったのか……」


 だとしても、その場全員を引かせるリアクションはいらなかったと思う。

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