第4話 では早速実践してみましょう。やれるもんなら。
「さて、僕からは一旦こんなもんでいいんだけど。バーナードくんからは何かあるかな?」
元帥から一士官候補生に対してと思えば、このうえない気遣いである。
が、今のシルビアはそれどころじゃないエネルギーに包まれている。そりゃエロゲキャラにこんな入れあげてるアラサー、カレシいないわけだ。
「いえ閣下、大丈夫です! 私にはもう、進むべき道筋と彼方より差す女神の松明の明かりが見えます!」
今度は自分が宝塚かのように高らかと。
バーンズワースは
「うん……。
引いているし、イルミは黙って肩をすくめる。
「まぁ、うん。でも、急に張り切ったって続かないもんさ。イベリアへ出航するまでは羽を伸ばしておかれるのも悪くない。見たところ、いきなり従者もなしの旅に出されている。部屋と数名をお付けしましょうか?」
なんかおかしくなったとでも思われているのか。『強めのお薬出しときますね』な気遣いまでされ始めるシルビアだが。
「いいえ閣下! 私も閣下の理念を体得するため! 他の新人士官と同じ屋根の下、同じ釜の飯をいただく所存です!」
「あ、そう……。じゃあ士官学校長に連絡しとくね」
野望のためにも一分一秒が惜しい。オタクのエネルギーは拗らせてから爆ぜると兵器なのだ。
「感謝いたします! それと、図書館の場所をお教えいただけませんでしょうか!? よき将校となるため、戦術戦略の教本を求めたいのです!」
「ミッチェル少将、案内してあげなさい」
「えっ?」
明らかに『もうどこでもいいから早よ行け』と『私!? イヤなんですけど!?』が滲んでいたが、彼女は気付かない。
オタクの視野は熱量と反比例する運命にある。
オタクの熱とは急に冷めるものである。
いや、何も急に「やっぱりどうでもよくなった」わけではない。
ただ、暴走して走り出すと、すぐ壁に当たるというだけの話。冷めるというか覚める、我に帰るのだ。
「で、どれを読んだらいいの?」
ここは図書館。見渡すかぎり本の海。
いくら前世では勉強が得意とは言え。それはカリキュラムが組まれた学校教育。「これから始めてこういうルートで学んでけ。教科書はこれな」とお膳立てされた世界。
いくらイベント系の業種でいくつも知らない業界に触れてきたとは言え。それはネットで「業界入門にオススメはこれ!」とすぐ検索結果があがる世界。
「あの、ミッチェ」
ドン引きだったミチ姉も高級将校の名に恥じぬ引き際。すでにいない。
先生もスマホもない世界へ放り出された彼女には、最初のとっかかりが分からない。
こうなったらもう、別の人に聞くしかない!
が、
周りの軍人たち。明らかにマント
つまり誰が上官か分からないのだ。もし下手に話しかけてスゴイ・エライ人で失礼があったら。
ちょっと踏み出す勇気がない。
かといって司書さん。
「あの、士官候補生とかが読むのにいい教本は」
「すいません。私、民間人なので、そういうのはちょっと」
役に立たない。
「うーむ、困った」
立ちんぼもなんなので、とりあえず椅子に座るシルビア。どうするべきか考えていると、
「あら?」
さっきから妙に視線を感じる。しかも一方向からではなく、あちこちから散発的に。
チラッと目線を向けてみると、青年と目が合う。彼はすぐに逸らしてしまったが、やはり周囲から見られている。
「いったいなんなのかしら?」
もしかして、私が惨めに追放された極悪人令嬢ってみんな知ってる?
そう思うとなんだかヤな感じ。せめてもの抵抗、『視線向けられたらすぐに合わせるゲーム』を軍服の海にしていると。
「あ、そうか!」
「図書館ではお静かに」
「スイマセン」
そう、軍服の海。一人豪奢なドレスのシルビアは、極悪令嬢関係なく目立つのである。
一つ謎が解けると脳みそは動き始め、新たな答えを導き出す。
「そうよ! 服装よ!」
「だからお静かに」
「ゴメンナサイ」
先ほどから見ていて、高級将校たちはみんな軍服がシワ一つなく芸術的なほど。
当たりまえである。ここは元帥府、デスクワークが主で前線のような苦労はない。しかもあれほどの身分になれば、使用人やら献身的なご夫人がいることだろう。軍服は常に清潔、アイロンがけもされているはずなのだ。
つまり!
時にはデスク以外、過酷な訓練も科され! 人も雇えず家庭も持てぬ身分で寄宿制!
軍服ヨレヨレのやつが士官候補生よ!
これが導き出した答えである。
ちなみに。「単純に若手が候補生なんじゃないの?」と思われるかもしれない。
だがこの世界は乙女ゲー。リアルな軍隊の描写よりも、女の子がキラキラできるのが最優先。
攻略対象になるほど若きバーンズワースが元帥なのである。年齢がアテにならないことはご理解いただけるだろう。
だがそれも限度はあるはず。若いに越したことはない。
あくまで軍服を基準に、年齢も手頃ならグー。以上の方針でシルビアが見つけ出したのは……
「軍服よし。年齢も、ここまでおさ、若かったら大丈夫よね?」
ちょうど戦術論の教本を胸の前で抱えている、
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「はい?」
枯れ草色の、ベリーショートな後ろに対して長い横髪を揺らし振り返る、
「その、あなたは士官候補生、ていうか」
ウルトラマリンブルーの瞳と熱っぽいような赤い頬の、
「そもそも軍人?」
「ですけど?」
身の丈150もなさそうな少女。
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