第24話 友達
授業が終わって、移動教室の時間となった。
わたしは準備をして、すぐに移動を始める――つもりだったのだけど、
「あ、あの……!」
呼び止められて、わたしは振り返る。
そこにいたのは、先ほどの授業で男の子にちょっかいを出されていた女の子だった。
何やら視線を泳がせながら、何か言いたそうな雰囲気を見せる。
「何か用?」
「あ、う、えっと……」
けれど、中々言葉が出てこないようだった。
すでに、他の子達は移動を始めている。思えば、彼女がクラスメートと仲良くしているところは見たことがない。
きっと、わたしと同じくクラスで孤立しているのだろう。
わたしの場合は、別に一人でも構わないと思っているのだけれど。
「用がないなら、もう行くわ」
「あ……」
いつまで経っても言葉が出ないのなら、彼女と話すことはない。
わたしは教科書を持って歩き始める――
「さ、さっきは、ありがとうっ!」
「っ!」
わたしは思わず、驚いて振り返ってしまった。
頬を少し赤くして、恥ずかしげな様子を見せているが、女の子は確かに『ありがとう』と言った。
「さっきって……見えてたの?」
「え、えっと、見えたと言うか、あの時……ちらっとだけ、あなたの顔が見えた、の。その時、なんとなく、あなたが助けてくれたのかな、って」
どうやら、わたしが魔術を行使したところを見たわけではないらしい――ただ、雰囲気でわたしが彼女を助けた、と考えたようだ。
確かに、他の生徒達は笑っていたし、きっと彼女を助けるような素振りも見せなかったのだろう。
別に、彼女を助けたことを隠す必要もないことだ。
「別に、なんとなく魔術の練習をしたくなっただけ。あなたを助けたわけじゃない」
「あ、そうなんだ……。で、でも、うれしかった」
笑顔を見せる彼女は、随分と可愛らしく見えた。
その時、わたしの脳裏に一つの言葉が思い浮かぶ。『友達』を作るなら、今が絶好のタイミングなのではないか、と。
「……そう。なら、良かったね」
「う、うん」
「……」
「……」
会話が終わってしまった。
残念なことに、わたしは友達を作ったことがない。
セシリアとは、助けてもらったこともあって素直に話すことはできたけれど、今は逆――彼女を助けたことで、わたしは少なからず彼女から好意を向けられている。
けれど、それに応える方法が分からない。
すでに教室にはわたしと彼女しかおらず、かなり気まずい雰囲気になってしまっている。
こんな時、何と言えばいいのだろう。
素直に、友達になってほしいと言えばいいのだろうか。……なんとなく、恥ずかしい気がする。
いつものように、クールな態度を取ってしまったために、今更『友達になってほしい』と頼むのも、なんだか変な感じがした。
絶好の機会だと言うのに、わたしはこれを逃す選択をせざるを得なくなってしまう。
「……それじゃあ、そろそろ授業に遅れるから」
「あ……うん」
わたしの言葉に従って、彼女もトコトコと自身の席に荷物を取りに戻る。
恥ずかしさとプライドのために、セシリアとの約束を果たす機会を逃してしまった――そう思いながら、わたしは落胆しながら教室から出ると、
「い、一緒に、行こう?」
不意に、彼女はわたしの手を握って言った。
驚いて振り返ると、彼女は相変わらず恥ずかしそうな表情を見せていたけれど、それでも勇気を振り絞って、話しかけてくれていることが分かった。
――それに応えない方が、きっと恥ずかしいことなのかもしれない。
「うん、一緒に行こっか」
「……! あ、ありがとう、アーシェちゃん」
「……そう言えば、あなたの名前って?」
「わたしは、ミシア・ルーディシア、だよ。アーシェちゃんとこうしてお話するの、初めてだもんね」
二人で手を繋いで、廊下を歩き始める。
こうして、わたしはセシリアとの約束通り――初めての友達を作ることに成功した。
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