第15話 アーシェの成長
それから、私は毎日アーシェと一緒の生活を送っていた。
いつの間にか洗濯物だけでなく、掃除まで手伝ってくれるようになり、私の式神の出番は少しずつ減った。
代わりに、彼女が式神を使って色んなことをするようになっていった。
もちろん、すぐに複数体の式神が動かせるというわけではない。
まずは一体の式神を、確実に動かせるように――そうして、一週間ほどで彼女は完全に操れるようになっていた。
二週間後には、アーシェは二体目の式神も操れるように成長している。
ペースとしては、かなり早い成長だと言えた。
今日は、三体目に挑戦しているところだ。
「ん、んん……」
さすがに少し難しいのか、声を漏らしながら集中しているアーシェ。
ここにやってきて三週間――来週から、魔術学園へと通うことになっている。
だが、ここまで一回も顔を合わせていない人物がいる。
アーシェの父である……ヴェイン・フレアードだ。
彼は常に屋敷で生活をしているわけではないが、ここ三週間以内に何度か戻ってきているはずだ。
それなのに、一度もアーシェの元へと顔を出していない。
アーシェの方も、父の話はしようとしないところを見ると、彼女もヴェインに対しては良い感情を抱いていないようだった。
……何より、ヴェインはアーシェを手放すつもりであるという話も聞いている。
護衛である私に全てを任せて、何があっても責任は私に押し付けるつもりなのだ。
だから、私もアーシェに対してはヴェインの話はしない。
「はぁ、ダメ。三体目は難しいよ、セシリア」
「二体目までは完璧に動かせていますから。ここまで来ると反復しての練習が必要になりますね。けれど、ここまでのペースを考えれば順当な成長かと思います」
「そうなの? セシリアがそう言うのなら、わたし頑張るっ」
このように、アーシェは私の言葉にもきちんと答えてくれるようになった。
むしろ、最近では常に一緒なのだ。
食事の時も、お風呂の時も、寝る時も――それこそ、家族以上に一緒にいると言える。
アーシェは一度懐くと、どこまでも隔たりがなくなるタイプなのだ。
私のことを家族以上に慕ってくれているのか……逆に、私の姿が長い時間見えなくなると、不安になるのか探して抱き着いてくることがある。
もちろん、その点については拒絶するつもりはないのだけれど、この先の学園生活では少し心配だ。
授業中まで、私が傍にいるわけではない。
基本的には送迎や昼食時などは一緒だが、それ以外は同じ学園の生徒と共にいなければならないのだから。
「お嬢様、来週からは学園生活のスタートです。すでに二体の式神を使えるお嬢様なら、きっと学園での成績も上位になりますよ」
「……うん。でも、あまり学園には興味がないの」
「新しいお友達もできるかもしれませんよ」
「友達は、セシリアがいるからいいのっ」
少し唇を尖らせて、そんなことを口にした。……正直、ちょっと嬉しい気持ちもあるのだけれど、そのままではアーシェの将来が心配になってしまう。
とはいえ、今から心配しても仕方のないことだろうか。
学園生活さえ始まれば、何か変わるかもしれない――そう思いながら、今日もアーシェとの変わらない一日を過ごしていった。
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