第14話 友達
どうしてこうなったのだろう――そう思いながら、私はベッドに横になる。
隣には、私の方に抱き着くようにして目を瞑るアーシェがいた。
昨日は普通に一人で眠ったはず……いや、それ以前に一緒に寝たいとは、どういうことなのだろう。
別に拒否する理由もなければ、私としてはむしろ歓迎できるところなのだけれど。
ただ、一緒に寝ると言っても特に話すことがあるわけでもなく――アーシェは安心した表情を浮かべて眠りについているようだった。
私はそっと、そんな彼女の髪に触れる。
銀色の髪は……フレアード家にはいない。そして、氷の魔術を使える人間もいないのだ。
けれど、私は彼女がフレアードの人間であるということはよく知っている。
それは紛れもない事実であると、私は確信を持って言えた。
「セシリア、何しているの?」
「! 起こしてしまいましたか」
「セシリアの傍で眠れるか確かめていたの」
アーシェがそんなことを口にした。
「私の傍で、ですか?」
「うん。わたしは、セシリアのことを信じることにしたから。だから……一緒にいたいの。寝る時もこうして傍にいて、安心していたい。セシリアにいると、よく眠れるからよかった」
「それは良かったです」
私はアーシェの言葉に頷いて答える。
つまり、アーシェが得たかったのは『安心感』だ。
私が傍にいて安心できるかどうか――つまりは、彼女は自分の信頼する気持ちを確かめたいということだ。
あまりに急なお願いに少し驚いてしまったけれど、彼女が私の傍にいたいと言うのならば、いくらでもそうしてほしい。
「昔は、お母様とよくこうして寝ていたの」
「そうなのですね」
「セシリアは、お母様の友達だったのでしょう?」
「はい、そうですよ。少なくとも私は、お母様――ルミリエ様のことを、親友だと思っています。今でもそうですよ?」
「そうなんだ。お母様は優しい人だから、セシリアにも優しかった?」
「それはもう。私なんかに良くしてくださいました。だから、私もルミリエ様にしていただいたように、お嬢様とは仲良くさせていただきたいのです」
「……うん。わたしも、セシリアと仲良くしたい。だから、セシリアのお話を聞かせて?」
「私の話、ですか?」
「そう。何でもいいから、セシリアのことが知りたいの」
何でもいい――そう言われても、さすがにアーシェに『同じ十歳の頃には魔術師として仕事をしていた』なんて言えるはずもない。
まあ、それ以外にも話せることはある。もう少し前の話、だ。
「そうですね。それほど面白い話はありませんが……私の出身地の話でもしましょうか」
「出身地? ここではないの?」
「そうですよ。私はここよりもっと南の方で生まれまして、領地で言うのならば『現』王国領にあります」
少なくとも、私が子供の頃はまだ王国領ではなかった場所ではあるが。そこまでの話はする必要はないだろう。
「自然豊かなところで、果物なんかはそこら中にありました。なので、よく拾って食べていましたね」
「拾って食べるの……?」
「この辺りではダメですよ。向こうでは普通なことですけど……まあ、ちょっと田舎臭いところではあるかもしれませんね。そういうところで生まれて育ったんです」
「じゃあ、セシリアの家族や友達は今もそこに?」
「そうですね。ですが、実は私も友達と呼べる人がルミリエ様だけでして。お嬢様が友達になってくださいましたら、これで二人目かもしれませんね」
「! それなら、なる。わたしはセシリアと仲良くしたい」
「ありがとうございます。では、今日から私とお嬢様は友達ですね」
「うんっ、わたしとセシリアは友達っ」
ぎゅっと少し強めに抱き着いてくるアーシェ。
もっと話が聞きたい――そうせがまれたが、明日の夜も話をしようと言うことで今日は眠ることになった。
わざわざ、両親はすでにいないことや、私の故郷も存在しないことを、彼女にまで話す必要はない。
私はアーシェと、友達になれたのだから。
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