第13話 訪問者

 夜――自室で一人、報告書をまとめる。

 この護衛任務において、唯一連絡を取り合っているのは、騎士団長であるティロス・グレイダンだけだ。

 報告書と言っても、早い話が『問題なし』ということの連絡だ。

 昨日の件もあって、『護衛対象』との接近に成功した……そんな、あまり好ましくない書き方をしなければならないのが、やはり仕事というところなのだろう。

 この仕事は――私事で動いているというのに。


「さて、これくらいでいいでしょうか」


 書き上げた報告書はパタパタと折り畳まれていき、『鳥』のようになって飛翔する。

 汎用的な魔術である式神だが、使い勝手は本当に良い。

 誰でも習うものであるが故に、これを極めようとする者も中々少ないのだけれど。

 私はベッドの方へ向かい、そのまま寝転ぶ。


「……ふふっ」


 今日のことを思い出して、思わず顔がほころんでしまった。

 あれだけ拒絶していたアーシェが、私の傍から離れない。

 洗濯物の時は魔術を教えてほしいと待っていて、魔術を教える時も付きっ切りだった。

 食事の準備の時は、リビングでアーシェが私のことを待っているくらいだ。

 ……まあ、そのせいで食事の準備でも式神を使っていることがバレてしまったけれど、それは些細な問題だ。


「素直なお嬢様はとても可愛らしかったですね……まあ、そういうことを言うと怒られてしまうかもしれませんが」


 お風呂から上がって、髪を乾かすのも任せてくれた。

 相変わらず口数が多いわけではないけれど、確実に距離は縮まっている――そういう感じがした。


「このままもっと仲良くなれたらいいんですけれど……」


 天井を見上げて、そんな願望を呟く。

 最初こそは、彼女の気を引こうと少し目立つこともしていたが、こうなるとあまり目立った行動をするのは逆効果になってしまうだろうか。


「ここから慎重に行動しないといけないかもしれませんね」


 せっかくアーシェが心を開いてくれているのだから、私が変な行動をしないようにしなければ。

 そう決意して、今日は休もうとしたところで――ガチャリと扉が開く。

 そこに立っていたのは、寝間着のアーシェだった。

 もうすでに眠ったものだと思っていたが……それ以上に、私の部屋にやってくることが驚きだった。


「! お嬢様、こんな時間にどうされました?」

「……うん。ちょっと、お願いがあるの」

「お願い、ですか」


 こんな時間にお願いということは……もしかして一緒に寝たい、とか。

 いや、さすがにそんなことはないだろう。

 私は少し冗談めかして尋ねる。


「もしかして、私と一緒に寝たい、と?」

「! うん」

「ふふっ、そうですよね。まさかそんな――え?」


 まさかそんなことだった。

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