第12話 魔術の授業

 洗濯物を終えて、アーシェに魔術を教える時間となった。

 彼女がやる気になってくれたのは良い傾向だ。

 私としても、これからアーシェには魔術の腕前を上げてもらいたいと思っている。


「では僭越ながら、私からお嬢様に魔術の手解きをさせていただきます」

「セシリアは魔術が得意、なのよね?」

「そうですね。人並み以上にはあると自負しております。たとえばですが、この『式神』は汎用魔術と呼ばれ、魔力属性に問わず誰でも扱えるタイプのものです。授業でもいずれは習うかとは思いますが」


 私が動かしているのは、『術式』を刻み込んだ式神だ。

 彼らに刻んだ術式に魔力を流すことで動かす――それが、魔術と呼ばれる類になる。

 他にも、魔術というのは基本的に『魔力の属性』によって扱えるものが異なってくるが、やることは同じだ。

 術式を使い、魔力で発動する――重要なことは、術式の組み方と魔力の使い方となる。


「この式神は通常、魔術師と呼ばれる者で扱える枚数は、多くても十枚ほどと言われます。私の場合、五十枚ほど扱えますね」

「五十枚……じゃあ、五倍も使えるんだ」

「そういうことです。お嬢様にお教えすることは、まずは魔力のコントロールからです。魔術自体は扱えますね?」

「うん、お母様から教えてもらって。こういうのとか……」


 アーシェが両手を差し出すと、魔力が集まっていくのが分かる。

 そうして集まった魔力は冷気となって、アーシェの手元に『氷の彫刻』が作り出された。

 鳥の彫刻だろう――随分と精巧に作られた飾り物のようだ。


「これは……素晴らしいですね。お嬢様は魔力の扱いに慣れていらっしゃるようなので、これならばすぐに上達するかと思います」

「……うん」


 こくりと頷いたアーシェは、少し嬉しそうな表情を浮かべていた。

 その反応が可愛らしく、私も思わず笑みを浮かべてしまう。

 こうして話せるようになってよかったと、心の底から思う。


「では、お嬢様にも私の式神をいくつかお渡しします。これらは枚数が多いほど繊細な魔力のコントロールを必要としますので。逆に、式神を操作する練習は、魔力のコントロールの仕方を学ぶ上でも必要なことなのです。まずは一枚を、私と同じように扱えるようにしてみましょうか」

「うん、やってみる」


 アーシェに一枚の式神を渡して、実際に私が目の前で動かしながら説明をする。

 式神は術式によって決められた動きをするものもあるが、人型のものは、魔力によって遠隔のコントロールも可能としている。

 そうして、洗濯物を手伝ってもらったり、部屋の掃除をしてもらったりするのだ。

 早速、アーシェも式神に魔力を注ぎ込むが、立ち上がった式神はすぐにへたり込んでしまった。


「……あれ、意外と難しい」

「ふふっ、最初はみんなそうなるものですよ。もう少し魔力を少なめにしてやってみましょうか」

「うん」


 アーシェが頷いて、再びトライする。

 この日は、彼女が一枚の式神を動かせるようになるまで練習が続いた。

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