第18話 肥溜めに落ちる勇者
「おじさ〜ん、また手伝いに来たよ〜」
「おーありがたい。君たちは仕事が早いから助かるよ〜」
レオンは前に順応性が高いと言っていたが、こうして依頼主である農家のおじさんとも気軽に話しているところを見ると、確かにそうなんだろうと思う。
そして仲良くなって一緒に謎の歌を歌っている。
「俺さ、都会っ子だったんだけどさ、こーゆー田舎暮らしっての?ちょっと新鮮で楽しい。歳取ったらこんな暮らししてみたいかも。」
「そうか。なら頑張って平和な世の中を作らないとな。」
「そっか〜。それ俺の役目だった。え〜なんか重圧すごくない?」
確かにな。俺がやったことだが、確かに俺がいきなり別の世界に召喚されて、「お前は勇者だ魔王を倒せ」とか言われたら逃げ出したくなる。
もしかしてその気を紛らわすために、レオンはこんなノー天気な奴を演じているのか?
本当のレオンを隠しているのだとしたら少し怖いな。
「おじさ〜ん、また来るね〜」
「助かったよー、またよろしくな。」
ご機嫌で手を振りながら後ろを向いて歩いていくレオン。
ズボッ
「アデルー、助けてー。臭いドブに嵌まった。」
「マジかよ。何してんだよ。しかもそこ・・・」
そこは肥溜めというやつだ。なんてところに落ちてんだよ・・・。
仕方なく手を貸して引き摺りあげたが酷い匂いだ。俺の服にまでついた・・・。
「レオン、ヒールが使えるということは浄化も使えるんじゃないか?これでは臭くて街に戻れんぞ。浄化をかけろ。」
「やってみる。」
ダメならとりあえず川にでも飛び込んで洗い流すしかない。
臭いよりは水浸しの方がまだマシだ。
「浄化、浄化、浄化・・・」
俺とレオンが白い光に包まれたと思ったら、俺の服もレオンの服も綺麗にはなった。綺麗にはなったが、真っ白だ。これは布を染めていた染料まで綺麗にしてしまったということなんだろうか?
まぁ今日は畑の野菜の荷運びで、汚れてもいいような服だし、お気に入りというわけじゃないからいいんだが。
「真っ白じゃん。えーなんで?」
「たぶん染料まで落としたということなんだろう。」
「あ〜なるほどね〜なんか白装束って感じ。臭くないけど目立つねー」
「確かにな。まぁ仕方ない。今日はこれで過ごすぞ。」
「え?やだよー。こんな格好で街歩くとか無理〜」
「じゃあどうするんだ?」
「あーでも、一周回って有りかもー」
「なら、このままギルドへ行くぞ。」
全身白など街でも目立つが、冒険者は特に黒や茶色などの濃い色を好んで着るから、ギルドに入ると余計に目立った。
「目立ってんね〜
あーでもさ、お医者さんとか白衣着てるし、今の俺はヒールでみんなの怪我治しちゃうし、合ってるかも〜
アデルは看護師さんで白衣の天使ね〜」
「・・・。」
なんかよく分からんがレオンは今日も機嫌がいい。俺はこんな乱暴者が多いようなギルドの中で目立つのがとても恐ろしいのだが・・・。
絡まれませんように・・・。俺は祈りながらずっと俯いていた。
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