第17話 更地になった理由



「夕飯はどうする?食べに行くか?買ってくるか?」

「そっか、食べに行くこともできるんだ?行ってみたい。ファミレスみたいなのある?

久しぶりにおにぎりとか食べたいけど、それはさすがにないよね〜?」

「どれも分からん。最近王都で人気のカリーというやつかを食べてみるか?」

「え?え?マジ?カレーあんの?食べたい!」


思った以上に食いついたが、レオンが望むものなどうかは分からないな。

これだけ喜ばせておいて、レオンが期待しているものと違ったら怒り出したりしないよな?

店が更地とかは勘弁してほしいのだが・・・。


「外では魔力は出すなよ?」

「うん。大丈夫。魔力ってすっごい集中してグーンってやんないと出ないし。」

「そうか。ならいいんだ。」


レオンが着替えるのを待って、俺たちはカリーという料理を出す店に向かった。

髪型が気に入らなかったのか、レオンはまたローブのフードを被って出掛けるようだ。髪を整えるのは時間がかかるから今日はもう諦めたらしい。



「ナン?あーこれパンか。

惜しい。バターチキンカレーっぽいからこれがナンだったら最高なのに〜」

「食べられそうか?」

「うん。本当はカレーライス食べたかったけど、バターチキンカレーも好きだから嬉しい。パンだけど。ナンの作り方知ってたらよかったんだけどさ〜そんなの知らないし残念。でも美味しいからいい。アデル連れてきてくれてありがとー」

「あぁ。」


また何を言っているのかさっぱりだったが、喜んでいるようで安心した。

俺も初めて食べたが、これは癖になりそうだと思った。

辛いのがいいな。


家に戻ると、昼間の話を聞いた。


初めは魔力のコントロールを磨くために、薄く魔力を出す練習をしていたらしい。

しかし魔力はかなり経験を積まないと感じ取れないため、出し過ぎだと言われてもレオンには今どれくらい出ているのかが分からなかった。

そして、それなら魔法に出力してみたらいいと。まぁ普通の人ならそれでもいいんだが、レオン相手にそれは不味かった。


ステータスに魔法は何が使えると書かれていたかと聞かれたレオンは覚えていた風と答え、しかしライトが粉砕したことからレオンはいきなりは危ないかもしれないと一度は断ったそうだ。

しかし、副団長は初心者が出す風など大したことないし、怖いのか?と煽ったようだ。そして訓練場は大型の魔法でも壊れないと聞いて、それならと風を出した。

そして2人は巻き込まれて砕け散った演習場の破片と共に空高くトルネードに巻き込まれ舞い上がり、そして風が収まると地面に叩きつけられた。


なぜかレオンは大丈夫だったようだが、副団長は瀕死の状態で起き上がることも声を出すこともできなかったため、レオンが本で読んだヒールをかけたら、なんとか持ち堪え、騒ぎを聞きつけた者たちに運ばれていったのだとか。


団長の副団長は自業自得という言葉が引っかかっていたが、なるほど。レオンの力を見誤ったんだな。

確かにレオンは話している感じはぽやーっとしていて強そうなどとは思えない。

多少ふざけているようなところもあるし、間延びした話し方をするためアホなのかと思う時もある。

実際のところはよく分からん。

だが、ステータスを見る限り、その辺にいる普通の人間に対応するような感じで力を出させていい人物ではない。

副団長もレオンにステータスを見せてもらえば今回のようなことが起きることもなかったのでは?


まぁでも死者が出なくてよかった。

訓練場の砕けた破片と共にトルネードに巻き込まれたせいで、そのボロボロの服の状態になったんだな。


「レオン大変だったな。それでレオンはよく無事だったな。」

「あーうん。なんか痛いって思った瞬間に治ってたんだよね。この前さ、ドランとシチュー食べたじゃん。あの時、熱くて舌を火傷したんだけど、スキル超回復を取得って聞こえて、それからちょっと痛ってなってもすぐに治るようになっちゃったんだよね。

なんか俺、超人みたい。」

「なるほど。だが、今回はレオンがそのスキルを持っていたから副団長を助けることができたんだな。二人とも瀕死の状態だったら助からなかったかもしれない。」

「そっか〜、確かに〜、じゃあよかったんだね〜オールオッケーってやつだ。

そっかそっか。じゃあよかった。」


やはり気にしていたんだな。

確かに魔法のない世界から来て、訓練場を更地にするなど、自分の力が恐ろしくなる気持ちは分からないでもない。



「でさ、今日はあの後ずっと本読んでたんだけどさ、明日からどうすればいいの?」

「難しいところだな。団長たちと今後どうするかは話し合わなければならないと思う。そう言えば、ヒールを使ったと聞いているがそれは問題なく使えたんだな。」

「あ、そうかも〜。魔力流したり風はダメだったけど、ヒールは大丈夫だったみたい。」

「それならヒールを使って魔力のコントロールを磨いていくのもありかもしれないな。」

「え〜それだと怪我した人探さなきゃじゃん。アデル怪我させたくないし〜」


「騎士団か冒険者ギルドに行けばいくらでもいるだろう。」

「そっか。確かに〜、ドランはでっかい牛と戦ったって言ってたもんね〜

じゃあ明日は冒険者ギルドに行ってみようかな。」


ヒールならかけすぎたところでどうなるわけでもないだろう。

それ以外は恐ろしいからまだ使わせたくない。


「冒険者はだいたい朝依頼を受けて午後に帰ってくる。午前中はまた荷運びでもするか?」

「いいね〜、そうする〜

たぶんサリューさんはもう教えてくれないだろうし、髭のおじいちゃんも無理だよね〜俺も無理だし。」


そんなにご機嫌取りをしなくてもレオンはたぶん温厚だし、怒って無闇に魔法を出したりはしないと思うんだが、彼がどんな奴か知らない時にあの訓練場の更地を見たら、恐る恐るしか話しかけられないのは分からなくはない。


というわけで、俺たちは魔法の指導官を見つけられないまま、独学でやれることを進めることにした。

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