第16話 勇者を回収する
コンコン
「アデルです。」
「入れ。」
中に入ると、積み上げられた魔導書や魔法の指南書の横にはボロボロの服のレオンがいて、難しい顔をした魔法師団長と騎士団長がいた。副団長は?
俺、ここに入っていいのか?
「アデル、勇者様の迎えか?」
「はい。」
「訓練場を見たか?」
「はい。」
「副団長が失敗した。あいつは自業自得だからいいんだが、危うく勇者様が身罷るところだった。」
「え!?まさか、副団長は亡くなられたんですか?」
「いや、勇者様が聖魔法を発動して無事だった。恐らくエクストラハイヒールだろうと思う。」
「・・・そ、そうですか。」
レオンはそんなものを使えるのか。ヒールの最上級魔法だぞ?しかも副団長はそれを使うレベルの怪我を負ったということだ。
死にかけたのは大袈裟ということでもなさそうだ。
「まだ魔力のコントロールは十分ではない。だが、何かあった時のために勇者様には恐れ多いことだが、ありとあらゆる危険回避のための魔法を頭に詰め込んでもらっている。」
「なるほど。」
ヒールが使えたのは図書館で借りた本から得た知識が役に立ったということか。
実戦は後にして、ありとあらゆる魔法を詰め込んでいるのか・・・ちょっと可哀想だな。
服もボロボロのままだし。なぜレオンをこんな服のままにしているのかが分からない。
「レオン、大丈夫か?」
「ん?楽しいよ〜。俺、まだちゃんと魔法使えるわけじゃないけど、それでも使えたのが嬉しかったから、もっと勉強したい。」
「そうか。俺のロッカーにローブがあるからそれを着て帰るか?」
「いいの?俺、このボロボロの服のまま帰ることになんのかと思った〜
セクハラじゃない?公然わいせつ罪じゃない?ヤバイよね〜捕まっちゃうかと思った〜」
「何を言っているのか分からないが捕まらないから大丈夫だ。」
「アデル、ありがとう。」
「あぁ。」
魔法師団と騎士団の両団長が驚いた顔をした。
あぁ、だよな。
俺は慣れてきたが、別に感謝されるような場面でもないもんな。
「その本は家に持って帰るのか?」
「んー持って帰らなくていいや。」
「もう読んだのか?」
「うん。もう3周くらい読んだ。」
「そうか。じゃあもう帰るか?」
「うん。帰りたい。」
「分かった。
団長、レオンを連れて帰ってもよろしいですか?」
「あぁ。勇者様の希望はできる限り叶えるよう言われているから問題ない。」
「そうですか。では失礼します。」
できる限り希望を叶えるか・・・。
きっと訓練場を更地にしたから怒らせてはいけないと思ったんだろう。
レオンはそうそう怒ったりはしないが、確かに持っている力だけ考えたらとんでもない奴だからな。
「アデル、あの人たち超怖かった。髭のおじいちゃんとゴリマッチョの人。」
「あの2人か?」
「うん。そう。何も言わずにジーッと俺のこと見てさ、隅で2人でこそこそ話してんの。で、俺に話しかける時は気持ち悪い笑顔でさ、勇者様とか言われてさ、敬語なんか使わなくていいって言ってんのに、悪代官の隣にいる胡麻刷りおじさんみたいだったよ。」
また何か分からないことを言っているが、とにかく偉そうに見えるじいさんと、筋肉の塊のような奴にヘコヘコされて気持ち悪かったんだろうということは分かった。
「それで、副団長と何があったんだ?」
怖いが、何となく聞いておいた方が良さそうだと思った俺は、あの訓練場が更地になった件を聞いてみることにした。
「家に帰ってから説明する。なんか疲れたし。」
「あぁ、構わない。」
ロッカーに寄り、長いローブをレオンに着せると、レオンはやはりローブのフードをしっかり深く被った。なんとなくそんな気はしていた。服がボロボロになるくらいだから髪も気に入らない状態になったんだろう。
俺たちはそのまま真っ直ぐに家に帰った。
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