第3話 音楽家
仕事中の彼女を私の私室と化している事務所の会議室にマネージャー経由で呼び出したのは、14時過ぎであった。
「お疲れ様でーす、失礼しまーす。」
「あーひなちゃん、急に呼び出してごめんね。忙しくなかった?」
「大丈夫です。朝から動画の編集してましたから。」
「この間の分かな?」
「はい、そうです。」
「そっか。それはお疲れさま。」
「それで、地方のテレビ局向けに動画撮るって木原さんから聞いて来たんですけど。」
「そう。ひなちゃんは武さんが実家に戻ったのって知ってるよね?」
「はい。この間のゴールデンウィークのイベントでお会いした時に挨拶していただきましたから。」
「それで地元で楽器屋するってのは聞いてる?」
「はい一応。その時に新しいお店の名刺も頂きました。でも元基さんのギターテックの仕事、辞めちゃう訳でも無いんですよね?」
「うん。僕が引き留めたからね。」
「みたいっすね。それも凄い説得されたって武さんから聞きました。」
「ははは。まぁそう言うことだね。それでさ、その楽器屋のオープンが今日の朝なのよ。」
「あっもう6月っすか。全然忘れてました。」
「そう。今日なのよね。それで僕も花を贈らせてもらったのね。」
「花って、あのでっかいオープンおめでとうってやつですか?」
「うん。でもさぁ、他の音楽関係の事務所やらミュージシャンとかもみんな花送ったらしくてさぁ。」
「武さん、人望厚そうですもんね。」
「うん。それでちょっとした騒ぎになったらしくってね。」
「え?花が多すぎてってことでですか?そんなにですか?」
「そうなんだよ。それで地元のテレビ局の取材が急遽入ったらしくってさ。僕んとこにも一言コメント貰えないかって。会社に電話かかってきたらしくって。」
「それで動画撮るんですか?」
「それがさぁ。最初、うちの会社の一般受付にその電話が掛かってきたらしくって、ここまでその連絡が来なくってね。途中で誰かが断ったらしいんだよね。」
「えええ?そうなんですか?」
「それで木原ちゃんがそれを
「それいいですねえ。面白そうです。」
「でしょ?だから急いで撮ろうって、ひなちゃん呼んだの。」
「なるほど。話は分かりました。それでいつもの機材でいいんですか?一応いつもの動画用のスマホにピンマイクの一式は持ってきたんですけど。」
「うん。それで大丈夫。」
「OKす。じゃあ…、早速撮っていきますか?」
「それなんだけどね、さっきからずっと何喋ろっかなって考えてるところなんだよね。それも最初の挨拶からどうしようって感じなんだけどさぁ。」
「元基さんが珍しいっすね。いっつもそんなに…、なんか緊張してます?」
「うん、そりゃあね。でさぁ、こういうのってこれは言っとかないといけないって言うのはあるのかな?これだけはってキーワードみたいなの。」
「あー。そうですね。うーん。」
「まずは武さんのお店の名前でしょ。」
「そうですね。…なんかに書き出します?」
「そうね。メモに纏めよっかな。」
「じゃあ、私書きます。」
「ありがとうね。」
「いえ、大丈夫です。それでお店の名前でしょ。…って、なんて名前なんでしたっけ?武さんの楽器屋さん。」
「えーっと、ちょっと待ってね。武さんからメールで来てたから。えーっと。」
「あ、その前に正しくその町の名前もかな。」
「そうだね。えーっと、…これだ。四名市の楽器販売&リペア SOULSHINEね。
「あー、四名ですね。」
「うん。」
「それで、楽器販売アンドリペア、ソウルシャインですか。」
「そう。それで武さんの名前どう思う?ちゃんと新垣さんって、呼んだ方がいいかな?僕にとっては、武さんは武さんなんだけどね。普段呼び慣れてる方が見てくれる人にも印象が良いんじゃ無いかと思うんだけど。」
「私もそう思います。それにもし今から撮る動画をテレビ局さんが使うんだったら、テロップとかで武さんのフルネームは入るんじゃ無いんですか?」
「それもそうか。」
「はい。それに私も元基さんが武さんっていつもみたいに呼んでる方が、ちゃんと知り合いなんだなって分かってそっちの方が良いと思います。」
「それもそっか。OK、じゃあそれで行こう。」
「はい。…後は、…そのテレビ局の名前ですかね?」
「四名テレビだって。」
「そのまんまっすね。」
「まぁ地方局だからそのまんまでしょ。」
「それもそっか。じゃあ番組名は?」
「あーどうなんだろ。入れた方がいいかな?木原ちゃんに聞けば分かると思うけど。」
「どーなんですか?うーん。」
「僕は四名テレビをご覧の皆様、こんにちは。で良いんじゃ無いって思うんだけど、どう?」
「そうですね。うーん…それで良いと思いますけど、こんにちは、で良いんですか?」
「あー、夜に放送するかもって話?」
「いや、ああ言うのってお昼時と夕方と夜と朝にって、しばらくは同じニュースが延々と流れてません?」
「そういうもんなの?」
「はい。うちの田舎のテレビ局はそんな感じでしたよ。」
「へーそうなんだぁ。」
「元基さんって東京でしたっけ?出身?」
「そうなんだよね。」
「あーなるほどぉ。じゃあ地方局って私の方が馴染みがあるのか。」
「そうだね。」
「じゃあそういうものです。って私が言えば説得力があるんですね。」
「ははは。そうかもね。」
「じゃあそういうものです!」
「ははは。りょーかい。そういうものね。分かった。じゃあどうしよっかな。」
「うーん。こういうのって業界人っぽく、おはようございます。で良いんじゃないっすか?」
「あーなるほどね。ひなちゃんがそう言うならそれで行こうか。ははは。」
「はい。それで、町の名前、店の名前、テレビ局の名前、そんなもんすか?あ、元基さんの宣伝は?」
「今回はそう言うのは無し。純粋に武さんのお手伝いだけ。」
「それで木原さんもOKって?」
「うん大丈夫。今回もしこの動画がテレビ局で流れたらそれだけで間接的に宣伝になってるし、そこのテレビ局とも繋がれるでしょ。そしたら今度そっち方面にライブで行く時にプロモーションもしやすくなるだろうって。まぁ会社としてはそういう種蒔きの意味でもあるしね。」
「あー、なるほど。」
「それでどんなこと喋れば良い?」
「うーん。どうせ使われるのって1分もないでしょうし、撮るだけ撮って素材のまま渡したらどうっすか?」
「そう?」
「勿論、粗編だけこっちでやってって形にはなるでしょうけど。」
「ひなちゃんがやってくれるの?」
「はい。でもこういうのって、ほんとに粗の方がいいんじゃ無いかって思うんで、ほんとにの程度ですけど。」
「そっか。いつもありがとね。」
「これが仕事ですから大丈夫です。じゃあ、このメモをスマホに貼っ付けてカンペにしますか?」
「うん。よろしく。」
用意してくれたピンマイクを襟口に装着している間に、彼女はさっきのメモをスマホのカメラの少し下の位置にマスキングテープで貼り付けてくれた。これで目線が泳がずにごく自然にカンペを見ることができる。
「これで大丈夫ですか?カンペ、ちゃんと見えてます?」
「うん大丈夫。じゃあ撮っていこうか。」
「はい。それで場所は?」
「ここでいいんじゃ無いかなって。僕の動画でここで撮ったのも多いし、僕の動画を知ってる人にはここが馴染み深いし、却って分かりやすいんじゃ無いかなって?」
「そうっすね、OKす。じゃあ画角はこれで固定で。…って固定でいいっすよね?」
「うん。大丈夫。」
「じゃあマイクテストだけさせて下さい。」
「テストテスト。信号行ってる?電源入ってるよね?」
「はい。大丈夫です。来てますよ。」
「OK。じゃあリハがてら、なんか喋ろっか。」
「はい。でも一応回しちゃいますよ。入力レベルを見ながらですけど。」
「了解です。」
「はーい。じゃあ回しまーす。3、2、1…。」
「えー四名テレビをご覧の皆様、おはようございます。竹之内元基です。…って、やっぱりこんばんはと、こんにちはも撮っとかない?夜のニュースにおはようは変じゃ無いかなぁ。」
「そうですか?じゃあ纏めて撮っちゃいましょうか。」
「OK。」
「音声レベルは問題無いんで、どうします?…じゃあ挨拶だけを3種類、まず撮りましょっか。」
「分かった。じゃあ順番に撮ろうか。」
「はーい、じゃあずっと回してますんで、元基さんの方で調整してください。じゃあ回しまーす。3、2、1…。」
「四名テレビをご覧の皆様、おはようございます。音楽家の竹之内元基です。…音楽家って入れた方がいいよね?…四名テレビをご覧の皆様、こん、にちゅは。音楽家の竹之内元基です。だめだ。噛んじゃった。もう一回ね。…四名テレビをご覧の皆様、こんにちは。音楽家の竹之内元基です。…四名テレビをご覧の皆様、こんばんは。音楽家の竹之内元基です。…これでどうかな?」
「うーん。ちょっと固いっすかね。」
「固い?」
「はい。」
「固いか?」
「読まされてる感出ちゃってます。」
「そっか。じゃあもうちょっと、柔らかくやってみる。」
「元基さん、ほんとに緊張してますよね?大丈夫っすか?」
「そりゃねえ。自分の動画なら適当にやっても僕の責任だから別になんだけど、これは武さん用だからね。やっぱり緊張はするよ。」
「そうっすか。元基さんのいつもの動画みたいに、もっと気楽で良いと思いますけどね。」
「そうなんだけどさぁ、武さんの迷惑にならないようには気をつけたいじゃん?これを見た視聴者さんが、嘘くさいとか事務所の仕事なんじゃないかみたいに勘繰られるような動画には絶対したくないしさ。」
「そんなこと…、大丈夫ですって。元基さんって、武さんのことになると力入りますよね?前から思ってましたけど。」
「武さんは恩人だからね。ほんとに感謝してもしきれないのよ。」
「そうなんすか?」
「うん、まぁね。昔の話だよ。」
「そうですか。じゃあまぁゆっくりちょっとずつやっていきましょ。早口にならないように明確に。」
「OK、じゃあもう一回。」
「はーい。ずっと回してるんで、元基さんの良いところで始めちゃってください。」
「OK。…四名テレビをご覧の皆様、おはようございます。音楽家の竹之内元基です!…この感じかぁ。…四名テレビをご覧の皆様、こんにちは。音楽家の竹之内元基です!…はーぁ。口が硬いなぁ。Brrrrrrrr。OK、じゃあ最後。…四名テレビをご覧の皆様、こんばんは。音楽家の竹之内元基です!」
「…はいOKです!…うん、良いんじゃないんすかね?」
「OK、じゃあ次か。どうしよっかなぁ。…音楽家の竹之内元基です。この度、僕のライブで長年ギターテックを務めてくださっている、武さんが四名で楽器屋さんを始めることになりまして、それで急遽この動画を撮っている訳ですけど。…なんか変かな?」
「…どうなんすかね?」
「うーん。こういうのって流れ的には次に何を話したら良いと思う?」
「そうですねえ。…まずは武さんとの出会いとか知り合ったきっかけとかはどうっすか?武さんとの出会いのエピソードトークは絶対必要でしょ?」
「あー出会ったきっかけかぁ。そうだね、それがいいかも。」
「さっきからずっと回しっぱなしなんでどんどんやっちゃってください。何度も言うようですけど、粗編で要らないとこは全部がっつり落としますんで気にせずに。」
「OK、じゃあ。えー、武さんとは僕がソロに成って最初のツアーの時に…。」
「ちょっと硬いっす。もっと肩の力抜いて。ここからはもっと普通にで良いと思いますよ。」
「そっか。OK。」
「ただしモゴモゴと何言ってる分からない感じになるのだけは気をつけて下さい。」
「分かったぁ。…えーっと、武さんとは、僕がソロに成って最初のツアーの時に、バックを務めてくださったギタリストさんの紹介で知り合わせて頂きました。それで僕のギターを調整してもらったらそれが全然弾き心地が良く成ってビックリしまして。それにライブ中も質実剛健を絵に描いたような仕事っぷりで、こんな人いるんだって感動すら覚えて、それから毎回、ギターテックは武さんにお願いしてるんです。だからもう15年くらいのお付き合いになるんでしょうか?…もうそんなになるんですね。そっかぁ。もう15年かぁ。」
「そこで考え込まない!」
「あ、ごめん。えーっと、それで今回、武さんが昔からの夢であった楽器店を武さんの地元で開くって話を聞いた時に、驚いたと同時に嬉しくもあったんです。ようやく武さんの夢が叶うんだって。それでこうして四名テレビさんを通じておめでとうございますのメッセージを送らせていただいてます…。他は?」
「えーっと、武さんのお店の宣伝はどうっすか?」
「OK。…四名の皆さんでもし楽器をやっておられる方がいらっしゃいましたら、是非一度、武さんのところへ楽器を持って行ってみて下さい。僕がその仕事に感動したって理由が分かっていただけると思います。…えーっと、これで他は何話したら良いかな?」
「うーん。そうっすね。…例えばですけど、四名って街と元基さんは何か関係は無いんすか?」
「何にも無いかな。行ったこともないと思う。…ん?いや、そう言えばバンドの頃に一回ライブで行ったかも。四名…、多分行った気がするけど全然覚えてないんだよなぁ。」
「確認取ります?木原さんに聞いたら分かりますか?」
「そうだね。ちゃんと確認取っておいた方がいいかもね。」
「じゃあ一回止めますよ。ちょっと聞いてきますから。」
「はーい。ひなちゃん、色々とごめんね。」
「全然大丈夫っす。」
彼女がマネージャーに確認をとってくれている間に、私は私で武さんと四名という街について考えていた。
武さんから四名という名前を聞いた時に聞き覚えがある名前だと感じたので、行ったことはある気がする。しかしそれがいつで仕事でなのか私用なのかが分からない。ただしこう言うコメントはきちんと裏を取っておかないと、もしライブで行ったことがあるのに初めて行くなんて言ってしまった日には、そのライブに来て下さった方々に失礼に当たる為に、事務所としても必ず裏を取る必要があるのである。
暫くすると早足の彼女が一枚の紙を持って戻ってきた。
「やっぱり昔に一度行ってたみたいです。四名の県民会館ってとこでバンドの頃にツアーに行かれてます。」
「バンドの頃にねえ、やっぱりそうか。」
「はい。でもそのホール、今はもう無いみたいですね。」
「えっそうなの?」
「はい。4年ほど前に閉館して、近くの県民文化ホールってとこにリニューアルオープンしてるみたいです。造りもキャパも変わっちゃったみたいですし。」
「そうなんだね。」
「はい。じゃあ撮っていきましょうか。」
「OK。」
「また回しますよ。3、2、1…。」
「えー、話は変わりますけれど、僕は昔のバンドの頃に四名に行ったことがありまして。でもあまりに昔のことなんで今となっては記憶が朧げなんですけども、今回、武さんを通じて間接的にご縁も出来たことですし、近々コンサートでお邪魔しようかなと考えています。その時はみなさん是非遊びに来てくださいね。…もう纏めちゃって良い?」
「はい。」
「…ということで、武さんのお店、楽器販売&リペア SOULSHINE、開店おめでとうございます。以上、竹之内元基でした。」
「カットぉ!良いんじゃないっすか。ちょっと時間的に短い気もしますけど、まぁ大丈夫だと思いますよ。」
「OK、ありがとね。それで、ひなちゃんさぁ。粗編後の素材って見れたりする?」
「良いっすよ。じゃあサクッとやってきますんで。ちょっと待っててください。」
「ごめんね。よろしくぅ。」
「はーい。」
そう言うと彼女は持ってきたノートパソコンだけを持って部屋を出て行った。
彼女を新卒でこの事務所に採用してから2年が経つが、いつもこうして率先して自分から動いてくれる。今では我が事務所に欠かせないスタッフの一人になってくれている。
「失礼しまーす。」
「はーい。どうぞー。」
「出来ましたよ。ほんとにばっさり切って繋いだだけですけど。」
「ありがとう。じゃあ早速だけど見せてもらえるかな?」
「はい。」
「四名テレビをご覧の皆様、おはようございます。音楽家の竹之内元基です!…四名テレビをご覧の皆様、こんにちは。音楽家の竹之内元基です!…四名テレビをご覧の皆様、こんばんは。音楽家の竹之内元基です!
武さんとは、僕がソロに成って最初のツアーの時に、バックを務めてくださったギタリストさんの紹介で知り合わせて頂きました。それで僕のギターを調整してもらったらそれが全然弾き心地が良く成ってビックリしまして。それにライブ中も質実剛健を絵に描いたような仕事っぷりで、こんな人いるんだって感動すら覚えて、それから毎回、ギターテックは武さんにお願いしてるんです。だからあれからなんで、15年くらいのお付き合いになるんでしょうか?…もうそんなになるんですね。
それで今回、武さんが昔からの夢であった楽器店を武さんの地元で開くって話を聞いた時に、驚いたと同時に嬉しくもあったんです。ようやく武さんの夢が叶うんだって。それで今回こうして四名テレビさんを通じておめでとうございますのメッセージを送らせていただいてます。
四名の皆さんで、もし楽器をやっておられる方がいらっしゃいましたら、是非一度、武さんのところへ楽器を持って行ってみて下さい。僕がその仕事に感動したって理由が分かっていただけると思います。
話は変わりますけれど、僕は昔のバンドの頃に四名に行ったことがありまして。でもあまりに昔のことなんで今となっては記憶が朧げなんですけども、今回、武さんを通じて間接的にご縁も出来たことですし、近々コンサートでお邪魔しようかなと考えています。その時はみなさん是非遊びに来てくださいね。
ということで、武さんのお店、楽器販売&リペア SOULSHINE、開店おめでとうございます。以上、竹之内元基でした。」
「どうですか?」
「話も画も繋がってないとこもあるけど、まぁ良いんじゃ無い?」
「必要だったら向こうで詰めてもらえるでしょうし、木原さんもこれでOKって言うてましたよ。」
「そう?」
「はい。それに向こうさんは地方局でもプロですから、私の編集なんかよりは全然腕も立つでしょうし。」
「そんなこと…」
「そんなことありますって。それに私にそこまで期待されてもってのもあるんで。一応。」
「ははは。そっかそっか。」
「はい。じゃあこれで大丈夫っすか?」
「うん。ありがとうね。忙しいところ。」
「いえ、全然。」
「あ、そうだ。今度さ、四名に動画撮りに行きたいんだけど、ひなちゃんも来てくれる?木原ちゃんと3人でさ。」
「四名に行くんですか?」
「うん、せっかくだしって。…どうかな?」
「私はちゃんとスケジュールに入れてもらえるなら全然。」
「うん。それにそのテレビ局にも行ってみたいんだよね。勿論、武さんとこの楽器屋の動画がメインなんだけどね。」
「テレビ局っすか。」
「うん。それにお昼の番組とか出たくない?それもひなちゃんはひなちゃんで袖からカメラ回してもらって。」
「あーそう言うやつっすね。」
「うん。どう?」
「はい、私は全然。…それっていつ頃ですか?」
「そうだねえ。早くても秋ぐらいかなぁ?武さんの方も落ち着いてからの方がいいだろうし。もしあれだったらそのお店でインストアイベントやっても面白いかなとか思ったりもしてるし。」
「それ、面白そうっすね。」
「でしょ?」
「私は全然大丈夫っす。」
「OK。じゃあ木原ちゃんに話しとくね。」
「はーい。それでこの動画素材って、木原さんに渡したら良いっすか?」
「うん。後のことはちゃんとしてくれると思う。」
「了解です。じゃあこれで、失礼します。」
「はーい。ひなちゃんありがとね。」
「はーい。お疲れ様でーす。」
暫くするとマネージャーがヒールの音を鳴らして会議室にやってきた。
「失礼します。」
「はーい。」
「あの竹之内さん。四名テレビの放送分、明日届くとのことです。」
「了解です。」
「それで、四名テレビのディレクターさんが、コメントに四名テレビさんって名前を出してくれたって喜んで下さったみたいで。」
「そう?」
「はい。先ほどお礼の電話を下さって、もし四名に来ることあったら是非連絡下さいって。」
「そっか。そりゃ良かったね。」
「それで武さんの方は?」
「ん?」
「武さんは何と仰ってましたか?」
「ん?知らない。連絡してないもん。」
「え?」
「どうせ、武さんのことだから、良いタイミングで連絡くれるよ。」
「それはそうかもですけど。」
「軽いイタズラよ、イタズラ。ははは。」
「はぁ。あ、それで、そのディレクターさんからですけど今のところオフレコでって。…この一連のニュースが反響あったとして、それからになるってことなんですけど。」
「うん、それで?」
「武さんのドキュメンタリーを撮りたいって仰ってて。」
「ドキュメンタリー?」
「はい、よくあるその人に密着取材してってあれです。」
「へええ。」
「四名のテレビ局だと人間国宝の人とか名産品で賞取った人だとか、割とそういう県民をピンポイントでピックアップするタイプの特番があるらしくて。それで武さんはどうだろうって声が出てるって。それでもしその企画が通ったらうちにもお世話になることは可能かって、そのディレクターさんから問い合わせが。気が早いとは思うって仰ってはいたんですけど。」
「ははは、それ面白いね。でも武さんは断るだろうな。」
「ですよね?」
「自分から進んで表に立つ人じゃないもんね。」
「でもまぁ、一応耳には入れましたからね。」
「うん了解です。木原ちゃん色々ありがとね。」
「はい。あ、それで秋に四名に行きたいって、ひなちゃんから聞きましたけど。」
「うん。どうかな?」
「面白いと思いますよ。これもご縁でしょうし。」
「そうだね。じゃあ前向きに考えといてもらえるかな?」
「はい。その方向で調整します。それでは失礼します。」
翌日、私の元に予想通りの電話が掛かってきた。
「お疲れ様です、新垣です。」
「あー武さん。お店、ついにオープンしたんだってね。おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます。お花も無事に届きましてありがとうございました。」
「そう。それは良かったです。それでどうですか?お店の方は。」
「おかげさまで上々のスタートです。それで元基さん。」
「はい。」
「動画、ありがとうございました。わざわざ元基さんの方からテレビ局に連絡くれたって。テレビ局のディレクターさんが仰ってました。」
「ああ、木原ちゃんに任してたんだけどね。せっかくならって。」
「ビックリしましたよ。全然その話聞いてなかったんで、妻がニュース見て教えてくれたぐらいで。」
「ははは。ビックリしたでしょ?」
「はい、すごく驚きました。」
「それは良かった。こんなでも少しは力になれたらなって思ったんだよ。」
「それはそうなんですけど、こっちの方はお客さんの方が割とビックリしてて。」
「そっか。ちょっとやりすぎたかな?でもそりゃ良かった。ははは。あ、それでさ、武さん。今度、動画撮りにそっちに行っても良い?楽器屋探訪みたいな感じの動画、僕のチャンネルで撮りたくってさ。」
「四名に来られるんですか?」
「うん。それにテレビ局にもプロモーションがてら遊びに行ってみたくってね。四名テレビさん。」
「はぁ。」
「まぁそれはまた追々で、今度話しましょ。武さん、今、みんなの所にお礼の連絡してるんでしょ?お花ありがとうございましたって。」
「はい。まぁ。」
「ははは、やっぱり。ってことで、じゃあ。またね。」
「はい。元基さん、ありがとうございました。」
「はーい。お疲れ様ー。武さん頑張ってね。」
「ありがとうございます。失礼します。」
私は無性に四名という街に行ってみたくなった。武さんの楽器屋にテレビ局。それに次のツアーにライブをしに行けたらきっと楽しいだろうなと、一人で考えるのであった。
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