第15話 エンカウント
喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉があるが、その喉元を過ぎずに常に熱いものが投入され続ければ、熱さを忘れることはないだろう。
何が言いたいかといえば、クラスメイト達からの静かなる叱責というか恨み辛みは、留まることをしらなかった。
なぜなら先ほども言ったように、怒るべきことが随時発生していたからだ。
「五見さん、この問題の答えわかりますか?」
「もう五見さん、授業中は寝てはいけませんよっ」
「あ、消しゴム落としましたよ、五見さん」
「もう解き終わったんですかっ?やっぱり五見さん、数学得意なんですね」
五見さん五見さん五見さん。
そのワードが彼女の口から飛び出すだけで、俺の身を焼く怒りの炎も温度を増していく。
クラスメートからの視線が、ブスブスと肌を刺していく。
かといって、彼女の友好的接触を無碍にできるわけもない。
そうした場合、それでも俺への怒りが増すだろう。
つまり俺は八方塞がりというわけだ。
「───っと、もう時間だな。日直、号令」
時計が12時半を示す。昼食休憩の時間である。
日直の号令で終了の挨拶を終えると、皆それぞれ、自分らの居場所へと集まっていく。
いつもなら俺が千紘のところへ、あるいは向こうから俺の方へやってくるのだが、今日はそうならない。
千紘の周りには、男子諸兄がわらわら集まっていたのだ。
「なぁ、五見ってやつなんなんだよ」
「めちゃくちゃ龍樹懐いてんじゃねーかよっ!」
「お前五見と仲良いよな…、アイツどんな洗脳術使うんだ…?」
実のところ、授業間の休憩中もアイツの周りにクラスの奴らが女子も含めて集まっていた。
俺と関係値のある奴が、千紘しかいないからだ。
いや直接聞いてこいよとか思うけど、まぁそれはそれで困るので、千紘には感謝したいところである。
「ったく、何度も言うけどさぁ。俺はなんも知らねぇって。普通に良いやつ
だからなんじゃねーのっ?」
そんな風に言われると恥ずかしいが、でもまぁそう言うしかないか。
龍樹の好みも、俺の性格も完全に把握しているわけではないんだし、当たり障りのないことを言うしか千紘はないだろう。
「いやいや、もっとあるだろ?なんかすげーテクニシャンとか…」
「うわぁ、やめろそういうこと言うの!!別に彼氏ってわけじゃねーだろ!?」
「でも、可能性なくはねーのよな…」
全く好き勝手言ってきやがる。
そんでもって、わいせつな映像を想像するな馬鹿どもめ。
俺に流れてくるんじゃ。
「…はぁ、じゃあもうさぁ───」
「直接聞いてこいよ」と千紘が言い終わる前に、俺は教室を出た。
アイツが言おうとしてることなんかお見通しである。
言おうとしてることをしっかり思考してから発してくれるから、なんて発言するかをテレパシーで読みやすいのだ。
おかげで、いざこざを回避することができた。
……いや、先延ばし、と言う方が正しいか。
昼休みが終わったら集団リンチに遭うとか…ないよな。
そんなふうに物騒な妄想をしながらやってきたのは、学食近くの購買である。
今日も今日とて弁当も、ひとりで食堂に居座る勇気もなかったので、購買の菓子パンで腹の虫を鎮ませようということだ。
割高だが、まぁ今日ぐらいは勘弁してもらおう。
誰にかはわからないが。
学食からいろんな食べ物の匂いが混ざった匂いが漂ってくる。
今日も混んでるなぁ、と、三百円を握り締めながら馬鹿みたいにボケーっとしている……と。
『お、アレが例のヤツだなぁ…?』
背後から妙なテレパシーを掴んだ。
────いきなり俺の耳を掴む。
脳裏にそんな映像が映った。
映像の中の俺は、「ふゃあぁあ」と気持ちの悪い
誰だかわからないが、たぶん面識あるヤツじゃない。
面識あるヤツのほうが少ないけど。
バッと急いで振り返る。
「おぉ、バレたかっ」
そこには切り揃えられた短い茶髪と、ジトーッとした目つきの丸っこい瞳を携えた、少女とも見紛う身長の女子が立っていた。
おどけたようにそう言う彼女は、にへーッと意地悪く笑っている。
「やあやあ、五見くん…だよね?奇遇ではないねぇ」
にまにまと笑う目の前の彼女。
「で、教えてもらおうか。莉央ちゃんを落とした方法を、さ」
笑みを保ったまま、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます