最終話② 不謹慎
茉莉花の写真に写っていたのは、寝たきりではないさち子が、作った赤い衣装を着て花の摘み細工を頭につけ、祥太と智紀のハルとナツのコスプレの近くに座っている写真だった。
「前に撮らせてもらったさっちんに、この衣装を合成して。そんで、写真集に使った二人のコスプレ写真と合成したの。出来上がりの想像図見せて、さっちんに気持ち盛り上げてもらおうと思って作ってたんだけど、結局渡せなくて」
茉莉花が言い訳するように言った。
「何だこれは。ふざけるな、全く」
祥太は震えた声でそう呟いた。
茉莉花は慌てた。
「ごめん、そんなつもりじゃなかったけど、こういう場に持ってきちゃだめだったよね。ふざけてるとか不謹慎だとか思うなら、返して……」
そこで、ふと茉莉花は言葉を止めた。
「兄貴……?」
智紀はそっと祥太に近寄った。
祥太は泣いていた。
さち子が死んだ時も、葬式の時も一切泣かなかった祥太が馬鹿みたいにボロボロと、大粒の涙を流していたのだ。そして絞り出すような声で呟いていた。
「全く、ふざけるなよばあちゃん。こんなにいい写真が取れるはずだったのに。もう少しあの世に行くの、我慢できなかったのか」
祥太は、自分が泣いているのに気づいて、慌ててハンカチで乱暴に顔を拭く。ハンカチは、さち子がハギレで作ったものだった。
「悪い。変なところを見せた」
「変じゃねえよ」
智紀は優しく言う。
しかし、祥太は首を振って必死でハンカチで止まらない涙を拭う。
「こんなんじゃだめだ。ご近所さんや親戚達に、しっかりしたところを見せなくちゃだめなのに、こんなとこ見られたら」
「もー、頑固だな」
智紀はそう言って、自分のジャケットを脱いで、祥太に頭から被せた。
「兄貴はさ、その青い髪色がトレードマークなんだから、それを隠しちゃえば誰にもバレねえよ」
そう言って、智紀はジャケットを被った祥太の頭を、抱え込むように抱きしめた。
「気が済むまで泣けばいいじゃん。誰も見てねえし」
祥太は何も言わず、大人しく抱えられたままになっていた。
そこにはいつもの、非常識なスタイルで、ナルシストで自信家で効率主義の兄はいなかった。
「どうしよう梨衣ちゃん、今、私この光景にむっちゃ萌えてるって言ったら、不謹慎?」
茉莉花が二人を凝視しながら言った。
「100パー、誰がどう聞いても不謹慎ですね」
幸田は辛辣に答える。
「でも、多分、天国でおばあちゃんも萌えてると思います」
「私もそう思う」
茉莉花と幸田は顔を見合わせて少しだけグフフ、と笑った。
少しだけ冷たい風がふいた。ジャケットの無い智紀が、小さくくしゃみをした。
〜 完 〜
祖母孝行はしたいけど、兄弟でキスはできない りりぃこ @ririiko
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