第32話 高品質のばあちゃんっ子
※※※※
「あれ、わかってくれました?あのお菓子見た時、絶対におばあちゃん気にいると思って。竹中くんに渡したらきっと察しておばあちゃんに渡してくれると思ったんですよぉ」
「ああ、すぐに分かったよ。かぼちゃの甘食だね。ハルがナツに作ってあげて、それ以来ずっとナツの好物になったあれだ。今はこうやって可愛い箱で売ってるんだねえ」
「甘食にチョコがけしたり、キラキラのアラザンかかったりして映え重視のお店なんですけど、でもこうしてシンプルなのもあるんですよー」
「バエジュウシ?」
「今度持ってきてあげます」
仲良く語らっている幸田とさち子を横目で見ながら、智紀はため息をついていた。
――ほらやっぱり。あれは俺宛のお菓子じゃなかっただろ。
「素直にばあちゃん宛って渡せばよかったじゃないか。変に見舞いが行けなくてとか言い訳するから、あの時兄貴、変な誤解したんだからな」
「変な誤解?」
「幸田さんが、その、……俺とお似合いだとか、どうとか……」
実際に口に出すと恥ずかしくて智紀はボソボソと口をすぼませた。
「え、やめてよマジで照れるの。こっちまで恥ずかしくなるんだけど」
「照れてねえよ!」
あの日の亮子のお見舞いから数日が経った。
茉莉花から連絡があり、亮子がうちに浴衣を持ってくると言うので準備をしていたのだ。
なぜかそれを聞きつけた幸田も、面白そうだからとやってきてさち子の部屋で楽しく話をしている。
仕事で留守の両親から「おばあちゃんのお友達が来るの?失礼のないようにね」と言われて高級なお茶と饅頭を預けられたので、それを準備して到着を待っている。
「そう言えば、お兄さんは?」
「茉莉花さんと亮子さんを車で迎えに行ったよ。まだ亮子さんはリハビリ最中だから、来るのは大変だろうからって」
亮子は祥太に何となく敵対心があったように見えたが、大丈夫だろうか。まあ祥太なら大丈夫だろう、と智紀は思い直した。
「こんにちは。お邪魔します」
来たようだ。玄関から茉莉花の声がして、智紀は迎えに行く。
玄関には、茉莉花に支えられた亮子と、亮子を支えようとして断られている祥太が立っていた。
今日の茉莉花は黒いウィッグバージョンだ。
「お待ちしてました。足、もう大丈夫なんですか?」
智紀がたずねると、茉莉花が渋い顔をして答える。
「全然まだリハビリ真っ最中だから無理しない方いいのに、車椅子は乗らないって言い張るの。支えながら歩くこっちの身にもなって欲しいよ」
「他の人のお宅にお邪魔するのに車椅子は迷惑だろうが」
亮子はキッパリと言い張る。
「うちは、ばあちゃんもたまに車椅子使うから、全然迷惑じゃないですよ。一部バリアフリーだし」
そう言いながら、智紀は亮子に手を差し出した。
「無理しないで下さいね。あ、ここの玄関はバリアフリーじゃないので、気をつけて」
亮子は素直に智紀の手を取って体を預けた。
その様子に、茉莉花は苦笑いしながら祥太に言った。
「あー、何であんなに懐いちゃったんだろ。弟ちゃん、何日かうちに貸してくれないかなー」
「はは、いつでも貸し出しますよ。高品質のばあちゃんっ子ですから」
祥太が勝手なことを言っているのを聞き流しながら、智紀は亮子をさち子の部屋へ案内した。
「さっちんに会いに行くのはやめとく、とか言ったのに、結局来ることになっちゃった」
茉莉花が恥ずかしそうに言う。
「ま、おばあちゃんも一緒だから可哀想じゃないよね」
「俺は初めから可哀想だとは思っていませんでしたよ。こんなに可愛らしいお孫さんが一緒にいるんですから」
祥太が一切の恥ずかしげもなくそう言った。
そんな祥太を無視するように、茉莉花は家の玄関や廊下をチラチラと見ながらたずねた。
「ここってやっぱり、バリアフリーにリフォームしてるよね?結構費用かかった?」
「うちは知り合いの工務店に格安でやってもらったので」
「そっかぁ。うちも検討しててさ」
「よかったら紹介しますよ。あと、確か条件によっては補助金出る場合もあると思いますが。調べてみましょうか?そういうの得意ですから」
「マジで?助かるー。今、バリアフリー工事するのにバイト増やしてたからさ」
「待って下さい」
祥太は険しい顔になった。
「家のバリアフリー工事ですよね?いくらなんでも結構かかりますよ。まだ学生の茉莉花さんが全て出すんですか?お父さんは?お金なら出してくれるんじゃ?」
「あーどうだろ。言った時あんまり興味無さそうだったしな」
「興味とかじゃ……」
「あ、あのぉ……」
智紀が、二人の会話におそるおそる入ってきた。真面目な話をしているので話しかけづらかったのだ。
「ばあちゃんが、茉莉花さんにも挨拶したいって。こっちの部屋来てもらえますか?」
「あ、ごめんね。行く行く」
茉莉花がパタパタとさち子の部屋へ向かうのを、祥太は苦い顔て見つめていた。
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