隣人歌詠みと家事代行者
sunlight
1 夕暮の 部屋で佇む 若人は ひとりで悩み ふたりで語る
窓の外からは西日が差し込み始めていて、たくさんの音が流れ込んできている。
目を閉じれば外の情景がすぐに浮かんでくる。
そんな中、僕、天宮彗(あまみやすい)は非常に気まずい空気が漂う図書室の中に謎の少女と二人きり。
…どうしろと?
暇を潰すための本でも借りようかと来たはいいものの、いざ入ってみたらたくさんの本が床に投げ出されていて、その先にいたのがこの少女なのである。
話しかけるべきなのか、はたまた沈黙を貫くべきなのか、一人悶々としていると、
「あなたはここで何をしているんですか。」と向こうの方から声が飛んできた。
悪意はない…よね。
「いや、ただ僕は…ここに用事があって。」
「そうですか。ならお気になさらず。」
そう言って彼女は黙々と本を片付け始めた。
片付けを手伝おうと、ふと床に積まれている本に目をやると、そこにはたくさんの見慣れた題名があった。
万葉集に新古今和歌集、そしてサラダ記念日。
「…短歌?」気づいた時には口に出していた。
その言葉に彼女はピクッと反応した。
「…知ってるんですか?」一瞬彼女の顔が明るくなったような気がした。
「まあ、一通りは。どれも有名だから。」
すると、また彼女の顔は先程のように無表情になった。
「そうなんですね…。」そう言うと彼女はまた本を片付け始めた。
そっけなさすぎる反応。まあそのくらいの方が初対面としては接しやすいから良いか。
「あの…君は何をしにここへ?」ふと気になり聞いてみたが、大丈夫だっただろうか。
「私は…ただ、本を読みに来ただけです。」
「にしても、本を床に積むって…何が」
「それ以上のことは何もありません。」
有無を言わせぬ強い口調でキッパリと言われたものだから、何も言い返しようがない。
「片付けのお手伝い、ありがとうございました。では。」
そう言い出ていこうとする彼女の後ろ姿を見て、僕は無意識のうちに
「君の…名前は?」と尋ねていた。
少し間が空いた後、彼女は振り返って「人に名前を聞くのであれば、先に自分の方から名乗るべきではないですか?」と微笑んだ後、「つきね、宵町月寧です。」と言った。
宵町…か。どこかで聞いたことがあるような気がしたが、今はその疑問をすっと奥の方に隠した。
「それで、あなたは?」
「ん…何が?ああ、名前ね。天宮彗。」
「天宮さん…ですか。またご縁が会った時には、よろしくお願いしますね。」
「ああ、わかった。こちらこそな、宵町さん。」
そう言って僕たちは互いに部屋を出た。
こうして、謎の少女とのひとときは幕を閉じた。
隣人歌詠みと家事代行者 sunlight @sunl_0516
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