第39話 紆余曲折
店は落ち着いてた。
売上もそれなりに。あまり無理はしない。
みんなで稼いで楽しく働きたいから。
結月と目標は立てる。そしてそれをやんわり流す。数字よりも雰囲気。数字を聞いてくる人には伝える。そんな感じ。
なので長いパートさん達とは数字で話すこともある。
また夏に向けてグラスや、食品やお菓子など色んなことを考えてた。たまに結月とごはんや飲みにも出かけた。インスピレーションを得たかったから。
でもたまに訪れる気分の落ちはしんどかった。
―――――――――。
「支払い行ってくる。」
「大丈夫?」
「大丈夫。」
「帰りにお昼ごはん買ってきたら?」
「お腹減ってない」
「とりあえず買っておいで。お腹すいたら食べられるように。」
「わかった」
店を出て支払いを終わらせると足が重くて動けなくなっていた。
僕は公園のベンチで座り込んでた。
膝の上に肘を置いて頭を抱えていた。
グルグル頭の中が回っていた。
僕は、片手でスマホを出してLINEで希咲にかけた。
―――(呼び出し中)
「どうしたの?」
希咲は2コール出た。
「グルグルしてる…動けない」
「結月は?」
「店」
「涼くんは?」
「公園」
「近くの?」
「うん」
「支払い行ってたの?」
「うん」
「待ってて行くから」
――――――10分後。
隣に希咲が座った。
僕は希咲に包まれた。
「会いたかった。」
「私も。」
「……もう誰かいるの?」
「いないよ。」
「ほんとに?」
「ほんとに。」
「なんで来てくれたの?」
「体が先に動くの」
「いつもそうだったね」
「そうでしょ?」
そんな時にスマホが鳴った。
希咲がすぐに出てスピーカーにした。
「大丈夫。公園のベンチにいる」
「希咲?なんであんたが出るの?」
「涼太に呼ばれた」
「は?なんで?」
「理由は知らない。」
「涼太出して。」
「スピーカーだから聞こえてる。でも話せるかどうかは知らない。」
「ねぇ、どういう事?!なんで希咲呼んでんの?!なんで店に連絡してこないの?!」
「……どうでもいいけど結月、あんた今旦那迎えに来れる?」
「今は行けない。店空けられないから。だから一人で帰して。」
「……送ってくからいい。」
「いいから。一人で帰らせて」
「今どんな状態か知ってて言ってんの?てかそんなに奥さんって偉いの?紙一枚でそんな酷い扱いできんの?」
「具合悪いだけだよね。帰って来れるよね。近いんだから。仕事も溜まってるし。だから言ったじゃん。ご飯買ってきて後で食べたら?って。」
結月が話してる間に希咲が電話を切った。
「涼太、帰ろ。結月に喧嘩売るけど黙って見ててよ。あいつおかしいわ。」
「めんどくさいことすんなよ。俺一人で帰れるから。呼んでごめん。」
「立てる?」
「立てる…」
僕はまたグルグルしてその場に倒れた。
「涼太?涼太!」
僕は完全に意識を無くしていた。
希咲は直ぐに救急車を呼んでくれて、一緒に病院に来てくれた。
―――――――――。
目が覚めると、希咲がいた。
「ここどこ?」
「病院。涼くん公園で倒れたの。」
「ゆづは?」
「『目が覚めたら連絡して』って。
昨日は来なかった。今日もまだ来てない。」
「俺のスマホは?」
「ここ。…はい。」
「ありがとう。」
(呼び出し中)
「結月、ごめん。」
「目さめた?」
「うん。」
「いつ戻るの?」
「わかんない。」
「ていうかさ、なんで希咲呼んだの。なんで私じゃないの?!」
「……結月、店にいたから。呼んだら迷惑かけるから、だから…。」
「そうだけど、普通あたしだよね?緊急なら店空けられるから!」
希咲は僕からスマホを奪った。
「あんた、あたしに言ったよね?
『店空けられないから一人で帰して』って。あたしは覚えてるからね?…もういい。涼太預かるから。別れて。もうあんたに任せてられない。」
「勝手なこと言わないでよ!」
「とりあえず、涼太と店行くから話そ。」
「話すことないから。」
「逃げんな!自分の旦那の状態もわかんないで外出したのあんたでしょ?嫁ならわかるでしょ?私ならわかるよ。」
希咲はそう言って電話を切った。
―――――――――2時間後。自宅に希咲と戻った。この日は定休日。
「涼ちゃん寝てて。」
「いい。ここにいる」
「寝てて。」
「ここにいる。」
「いいよ。その方が私も安心だから。」
「うん。」
僕は希咲の横にいた。
目眩は無くなったが体が重い。
そんな中最初に口を開いたのは希咲だった。
「……結月。涼太さぁ、目覚めて最初に誰の名前言ったと思う?」
「どうせ希咲でしょ?」
「ううん。違う。結月。私にお礼を言う前にまず『結月は?』って。いつだってそうなんだよ。いつだって結月にいて欲しいのに肝心な時にあんたはいない。なにやってんの。」
「知らなかったから。」
「知らなかったじゃ済まされないから。あんた一回も病院来てないよね?あたしの事追い出してでもくるべきだから!あんた、変わってないよ。頭より先に動かなきゃいけない時もあるって言われなかった?」
「やってたよ?!休みの日だって来てたし、出来るだけそばに居ようって努力した!!」
「……涼太の今の状態なんて言われたかわかる?」
「知らない。聞いてないし。」
「なんで聞かないの?気にならないの?興味無いの?」
「帰ってきたら聞けるからって思って。」
「私にでも聞けたよね?連絡先消した?涼太にかけて話すこともできたよね?」
「……涼ちゃん。どうだったの?何が起きてたの?」
「三半規管が弱ってるって。自律神経から来てふらしい。」
「…それにうつ症状もあるって。それは昔からあるから驚きもしないけど。」
「涼ちゃん、こっち来て。」
「嫌。行きたくない」
「なんで?」
「……起きたら結月いなかった」
「希咲いたでしょ?」
「……俺はお前がよかった!いつだってお前がいい!」
「じゃあなんで希咲よんだの?」
「迷惑かけたくなかった。忙しいし。希咲呼べば手空いたらきてくれるとおもったから。最悪来てくれなくても希咲がいてくれる。」
「その最悪になった。結月、どうすんの?」
「裏切ってたの?まだ裏であってたの?」
「会ってない」
「うん。あの日から会ってない。」
「涼太、もう決めて。」
「結月、別れよ。いくらお前求めても来てくれねーもん。いっつもそう。でも希咲は必ず来てくれる。俺の事見ててくれる。ダサいけど俺にはその目が欲しい。」
―――――――――半年後。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ。あー!この間はありがとうございました!」
「結月!」
「なに?」
「あ、先日はありがとうございました!」
――――――――――――。
隣には結月が居る。
そして…。
「希咲ー。いる?」
「涼くんこっちー。」
「……。」
「希咲ー。」
「どうしたの?」
「またあのお客さん来てくれたよ。マグカップいっぱい買ってくれた方。今日はお皿欲しいって。」
「えー?ほんとに?私もご挨拶してくる!」
僕は今また、結月と希咲と居る。
僕には2人とも必要なのと、片方づつ居ないとまたならないのと、やっぱり…吐ける先は希咲。
希咲も僕になんでも話してくれる。
ぶつかる事も相変わらずあるけど、
でも、ちゃんと解決してる。
結月とは婚姻関係を解消した。
僕にとって『奥さん』と呼ぶ人はこの2人ではないのかもしれない。
だからこの2人は今ビジネスパートナーとして一緒にやってる。プライベートは好きにさせてる。
要するに僕は僕で本当に心置ける人が居ることに気付いたから。気分の上がり下がりもあるけれども、その人が支えてくれてる。
―――――――――。
「悪ぃ。ちょっと下行ってくる。」
周りに迷惑をかけないようにコーヒーを持って下に行くと、誰かが自宅に連絡する。
早いと数分後には、地下の扉が開く。
そして僕の隣に座って包み込んでくれる。
「今日、まだがんばれそう?」
「ちょっとだけここに居たら生き返れそう。」
僕はその人の方に体を向けて膝の上に乗せた。
「涼太。」
「ん?」
「あんたあの二人に任せて暫く休んだら?」
「店に出たい」
「だけど最近あたし呼ばれるの多いよ。いいんだよ?ある意味これがあたしの役目だから。」
「迷惑?」
「みんなに心配かけてる。前よりはマシだけど。」
―――――――――数ヶ月前。
結月と話して離婚した。そして希咲を呼び戻した。
仕事は上手くいってた。
けど、僕のメンタルが芳しくなくて、2人に迷惑をかけることが増えてて、ある日、真凜を呼んだ。
――――――ある日。
「結月ちゃん、久しぶり。」
「あ、お久しぶりです。」
「涼太は?」
「下にいます。」
「どんな感じ?」
「ここにはいれない感じです」
「ほっといて大丈夫?」
「後で様子見に行きます。」
「あのさ、相談があって。お店閉めてからでいいんだけど、話せないかな?」
「今でもいいですよ。ここで仕事しながらでもよければ」
「うん。聞いててくれればいいから。ごめんね。忙しい時に」
「どうしたんですか?」
「結月ちゃん、立ち入った事聞くけど、涼太と籍抜いたって?」
「はい。抜きました。実家に戻ってたまに様子見に行ってます。あんな感じなんで寝る前連絡取って、朝も。」
「大変じゃない?」
「でも別れたとはいえ役目かなと。求めてくれてる間はしてあげたいし」
「……結月ちゃん、あなた若いんだから自由になりなさい?」
「……どういう意味ですか?」
「私があいつと籍入れる。事実上あいつの妻になる。あなた達は自由の身。ただやりたい事が明確ならここをやめてもいい。もしくは見つけ次第フェードアウトしてもいい。要するにあいつの面倒はあたしが見る。」
「どういうことですか?つかめません。」
「あいつからの提案。あんた達を自由にしたいって。最後は店閉める事も考えてるって。」
真凜はそう話して下に来た。
その時僕は……。
「涼太ー。いる?」
真凜がドアを開けると僕が寝ていた。
「寝てるの…?」
そばを見ると、薬のカラが大量にあった。
真凜はすぐ上に行って救急車を呼んだ。
数分後には店の裏口にサイレンを鳴らさない状態で救急車が来た。
運ばれて行く僕を2人は見ていて、希咲が着いていこうとすると真凜が停めた。
「希咲ちゃんは、結月ちゃんと店にいて。私が行くから。」
その後。希咲は結月からことの次第を聞いた。
―――――――――。
真凜はずっとそばに居てくれた。
僕はまた目を開いて口を開けば、
「結月は?」と繰り返していた。
でも真凜は呼ばなかった。
僕は、退院して自宅に帰ったあと真凜の目を盗んで店に行った。
裏口から結月を探した。
すると、買い出しから戻った結月が駆け寄ってきた。
僕は思わず抱き締めた。
「涼ちゃん。大丈夫?」
「もう大丈夫。ごめんな。心配かけて。」
「ごめんね。会いにいけなくて。真凜さんから止められてて。」
「……結月。自由になれ。好きなとこ行け。ごめんな。縛り付けて。」
「違う!あたしが涼太と離れたくないの!!あたしが間違ってたの!!」
「……自由になりなさい。」
僕は結月を残して帰宅した。
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