第38話 心の支え

――――――「おはよー。」


「おはよー。」


僕はこの日先に出勤していた。

最近結月はまた一段と明るくなった。……ように見えるのか?


そしてこの日、肩まで伸びた髪を下ろしていた。


「あれ?ゆづなんで髪結んでないの?」

「よく見てるよねー。変態!」

「なんとなく。」


結月が笑うのでつられて笑った。


「言ってみて。本音を。どうぞ?」

「うーん……」

「はい、5、4、3、」

「どちらにせよ不安。」


結月は僕を見て横目で笑った。


「それで?」


僕は立ち上がって結月を抱きしめた。


「大好き。誰にも見て欲しくない。俺だけの人だから。みんな結月をいやらい目で見てる気がする。それが嫌。俺の結月なのに…。」


「本当に涼ちゃんは可愛いね。大丈夫だよ。変な人来たら涼ちゃんが追い返してくれるから。でしょ?」

「そうだよ。」

「嫌な思いする前に助けてくれる。この間も営業さんに怒ってた。知ってるよ?」

「だって結月に『可愛い』って言うから。」

「殴りかからなかっただけ偉かったよ。」

「行きそうだった」

「知ってる。我慢してるのもわかってた。」


「ダメだ。可愛い。結月……。」


また結月を抱き寄せた。


「わかったから。仕事しよ?」

「そうだね。」




―――――――――数日後。結月の休みの日。


僕は朝から結月を抱いた。


「……行けそう?」


結月は息絶えで僕に聞いた。


「ありがとう。ちゃんと帰る前に連絡する。」

「ダメそうなら連絡して。いつでも行けるようにしておくから。」

「休みくらいゆっくりしろよ。」

「ありがとう。買い物だけ行ってくるかな。」

「……気をつけてよ。知らない人に声かけられても答えるなよ?」


僕はベッドに座る結月に口付けた。


「子供じゃないんだからさ。」

「俺の宝物だから。」

「そうだね。……涼ちゃん」

「うん?」

「大好きだよ。」

「あぁーだめ。もう1回しよ。」

「ダメ。店開けないと。みんなは入れないよ。」

「そうだった!」

「行ってらっしゃい。」

「はい!」




―――――――――。


「店長。」

「うん?」


声をかけてきたの瑠花。


「大丈夫そうですか?」

「ママ呼ぶなよ。そっちは足りてる。」

「根に持ってます?」

「いや、あれは俺が悪い。嫌な思いさせて悪かったな。」

「いえ、あの時は私の方こそ変なところを見せてしまってすみません。」


「お前、大丈夫か?」

「大丈夫…ではないです。静かなフリして頑張ってるのに事実は違うというか、あんなことさせられてるなんて誰にもいえなくて。」

「助けてやりたいけど、瑠花はどうなの?親が捕まってお前は多分児相が施設か里親家庭。どちらにせよまたなんらかの被害にあう可能性も出てくる。なんとも言えない。」


「そのうち、年上捕まえて家出ます。」

「耐えられるか?」

「ママも捨てられないので。」

「どんな親でも親は親だしな」

「はい。」


「辛かったら言え?俺でも結月でも。状況は知ってるから。」

「ありがとうございます。」


「ちょっとタバコ吸ってくるかな。」

「体に良くないですよ。匂いもついちゃうし。」

「……結月いねーとしんどくて。紛らわしてないと頭おかしくなりそう。……ダサいよな。」


「店長、私でよければしますか?」

「……いらね。やめとけ。一回お前から逃げてんだろ。」

「本当に結月さんがいいんですね。」

「当たり前だろ。」



――――――夕方6時。閉店まで残り2時間。退社予定まで3時間。


スマホに目を落として、写真フォルダから結月の画像を見た。何枚も何枚も笑ってる結月、拗ねてる結月、泣いてる結月…結月…結月…。


(やべ…泣きそう)


すると、


「おつかれー」と結月の声がした。

「結月さん!お疲れ様です。」

「店長どう?生きてる?」

「あぁ…ギリギリ生きてます。頑張ってましたよ!」


「瑠花、余計なこと言うな!」

「やばっ!バレた。」瑠花は売り場に消えていった。


「頑張ってたの?」

結月が笑いながら僕に聞く。

「ま、まぁね。」


結月が事務所に入ってきて僕のスマホに目を落とした。


「ここに本物いるよー。」

「あっ、ちょっと見るな!」

「涼ちゃん、おいで。」


両手を伸ばす結月を抱き寄せた。


「……。」

「ちょっとだけだけど手伝いに来たよ」

「休みだろ。休めよ。」

「画像みて頑張ってた人がそれ言うの?」

「……来てくれてありがと」

「うん。その涼ちゃんが好き。」

「…嬉しかった。結月の声したから。」

「でしょ?」

「ありがとう。」

「いいえ。もうね、うずうずしてたの。いつ連絡くるかな、いつ店から連絡くるかなって。」

「楽しみにしてたの?」

「そう。…早く会いたかった。」

「結月…」

「よし!やるよ!」

「はい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る