第35話 最終判断

――――――数週間後、結月の休みの日。


やはり僕はまた飲み歩いてた。

また泥酔して歩けなくなってた。


何度も何度もなるスマホ。


光るのは『結月』の文字。


酔いが酷くて画面の字が読めないまま出た。


(通話中)


「……るっせーな。お前だろ。勝手に店辞めたの。お前のせいで結月に会えない日増えたじゃねーか。どうしてくれんのよ。」


「どういう意味?」

「…結月?あれ?希咲じゃねーの?」

「どっちでもいい。どういう意味?」


「ちょっと貸して。」


その頃、結月に呼ばれて希咲が店に来ていた。


「店来て。あんたね、あたし居なくなったんだからしっかりしなよ。」

「……希咲。会いたい。」

「でしょ?待ってるから。店、帰っといで。」



――――――――――――。


僕はフラフラしながら店へ戻った。


そして僕は事務所でつまづいてこけた。


真っ先に来たのは希咲。


「酔いすぎ。いつもの事だけど。」

「痛てー。」

けたからね。そりゃ痛いよ。」

「血出てない?」

「出ないでない。涼くん強いから大丈夫。」

「骨折れたかも」

「大丈夫。そうそう折れないから。」


僕は起き上がって希咲を抱き寄せた。


「……会いたかった」

「結月に呼ばれたよ。あんたが帰ってこないって。電話も出ないって。」

「出たよ。」

「あたしだと思ったんでしょ?」

「そう。」

「……結月に迷惑かけないでよ。あたしじゃないんだから。」

「お前ならいいの?」

「あたしならね。そういう役目だし。」


「……希咲。そばに居ろよ。どこ行ってんだよ。なんで来てくんなかったんだよ。」

「……結月、涼くんさ、結月が休みの日、しんどい顔見せたくなかったんだんだって。心配かけるからって。だからフラフラになるまで飲んであたしにいつも電話かけてきて迎えに来させてたの。」


「…知らなかった。涼ちゃん、希咲がいい?」

「……お前に決まってんだろ!!」

「本当は?」

「……黙れ。」

「黙らない。本当は?どっちなの?」

「……じゃあ来いよ。なんで来ない?!」

「呼ばれてない。」

「呼んだよ!!呼んだ!!なのにお前は来なかった!!でも、希咲はすぐ電話出くれてすぐ来てくれた。だから…お前居ない時は会いたくなかった。こんなの見せたくなかった。……希咲。いろよ。なぁ?いろよ!」


僕はまた希咲を抱きしめた。


「涼太、あたしは結月じゃない。結月にはなれない。結月の代わりにもなれない。わかるよね。だから居なくなったんだよ?」


「……」

「涼ちゃん。希咲を自由にしてあげて。」

「黙れ。お前に何がわかる。しんどい時いつもお前はいてくれなかった。俺がしんどい時はお前が居ない時なのに。いっつもお前は居ない!」


「涼ちゃん。そんなにあたしがいい?」


僕の横に結月が座った。


僕は…非常にも結月を思い切り抱き締めた。


「黙れ。俺の事なんもわかんないくせに。」

「じゃあなんで私の事抱き締めてるの?」

「黙れ。」

「ちゃんと教えて。わかんないよ。」


「……希咲は分かってくれる」

「え?」

「希咲は言わなくてもわかってくれる。」


「そうだね。…結月を手放したくはないけど、あたしの事もそばに置いておきたい。 …でもね、涼くん。女の子はさ、一番でいたいし、一番しか要らないの。二番目はいて欲しくないの。わかるよね?」



「……なんで?なんで希咲は結月じゃないの?」

「ねぇ。一緒だったらよかったのにね。」


僕は……またふらつく足で立ち上がって一人で歩いて事務所を出ようとした。


やはり体が先に動くのは希咲。


僕を支えに来てくれた。


「なんで結月じゃない?なんで結月は来ない?」

「わかったから。もうわかったから。ここに居て。」


「……結月、言ったよな。『遠慮すんな』って。覚えてねーの?いっつもそうなんだよ。真っ先に刃向かってくんのは希咲。殴りかかってくんのも希咲。頭で考えんのもいいけど、ぶつかってこいよ。女だからって大人しくすんのが美しいわけじゃねーんだよ。」



すると、結月は立ち上がってこっちに歩いてきた。


そして希咲に言った。


「希咲どけて。……あたし、涼太と結婚したの。そこまでこじつけたの。頭で全部来た。あんたバカだから勝てると思ったの。勝ってたつもりだったの。けど…全然勝ててなかった。どうしたらあんたに勝てんの?」


「結婚が全てじゃない。全力で向き合わないと。あたしは結月の言う通り賢くは無い。計算もできない。けどね、あたし涼太の頭の中は隅々まで見えるの。して欲しいこともして欲しくないことも。それがあたしには出来たの。…瑠花の母親にやられかけたの知ってる?怖くて気持ち悪かったのに夜中に涼太からやりに行ったの知ってる?行った先で瑠花とやらされそうになったの知ってる?下で薬飲んで潰れかけてたの知ってる?何も知らないでしょ?真凜と生理的にむりでやれなかったのにその後やったの知ってる?……あんたはね。愛されたすぎるの。涼太はあんたより何倍も何倍も愛されたいの。気持ち悪いくらい。だからあたしは何番手でも良かった。そばにいれるなら。でももう我慢ならない。体が先に動くの。……なんであんた今日あたしに頼ったの?あたしならこの人が出ると思ったからでしょ?勝ち負けとかくだらないから言いたくないけど、結月あんたもっとちゃんと見てあげて。全然見てない。あたしの方がずっと見てる自信ある。……で?涼太、あんたはどうしたいの?」



「戻ってこい。この店閉めるから。手伝って欲しい。閉めたらお前と出る。希咲。そばに居ろ。」

「偉そう。」

「あぁ?」

「まぁいい。後でちゃんと聞いてあげるから。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る