第23話 蘇る記憶。

――――――質素なラブホテル。狭い部屋にベッドだけ。


「座ってていいよ、俺風呂入れてくる。」

「あたしやるよ?」

「いいから座っとけ。」

「うん…ありがとう。」


僕は風呂の湯を入れて隣に座った。


「……明るいな。」

僕がまた動き出すと、


「いいよ、あたしやる。」

「座っとけ。」


僕が電気を暗くして2人がけのソファに戻ると


「いつもこうなの?なんでもやっちゃうの?」

「そう。女にやらせるのが嫌。女がやって当たり前も嫌。やりてーのこっちなんだから疲れる事増やす必要ないじゃん?デリヘルじゃねーんだからさ。」

「いいね」

「そう?変かな?」

「ううん。いいと思う。」


僕はチラッと真凜を見た。


「まさかと思うけど、あんた緊張してる?」

「まさか。」

「強がんなくていいよ。お互い同じ年数生きてんだから。数が違っても分かるものは分かるでしょ。」

「…なんか変なスイッチ入ってる。」


「…こういうの?」


真凜は僕の上に片足だけ乗せて僕の頬を人差し指で撫でてきた。


「イきそう…」


「『振り幅』ね…上手く言った物ね。ドMのDV男が。」


僕は…真凜の首に手をかけた。


「今なんか言った?」

「お好きにどうぞ?」


僕は手を下ろした。


「……。」

「なに?」


「もういい。帰る。」

「なんで?何もしてない。」

「お金は払うから。迷惑料も。」

「お金の問題じゃない。」



僕は、真凜から離れてベッドに腰掛けて…膝に手をついて頭を抱えた。


「……。」


そんな僕を真凜は後ろから包み込んでくれた。


「帰る?」

「……死にたい。」


僕は泣きながらそう答えた。


「話して」

「結月を苦しめたい。苦しめて俺だけだってずっと言わせてたい。でもあいつはそれを喜ばない。ただ辛いだけ。ただ悲しいだけ。可哀想なだけ。」


「……それで?」


僕は、真凜を押し倒して腰の上に乗った。



「わかったフリすんじゃねーよ!!俺は誰といてもそうなの!!いつだってそうなの!!だから別れてた!でも結月は…あいつは…大事に育ててた。傷付けないように、壊さないように、汚さないように…でも…殺したいくらい俺の目の前で息の根止めたくなんの!!分かんねーだろ!!…それが誰に変わっても同じなんだよ!!ちょっとでも気があって付き合い始めたらそうなんだよ……」


僕は、涙の粒を落としながら真凜の両腕を抑えてた。


「ねぇ。こんな時に申し訳ないんだけど」

「なに?」

「しよう?」


僕は真凜を抱き起こして僕の上に座らせた。

そして…服を着たまま抱きしめ合った。


「涼太、あんたの事あたしは分かるよ。あたしは…羨ましいよ。それだけ思われてるあの結月が。あたしも思われたい。でも嫌なんでしょ?色んな男があたしにベタベタ触ってるから。」


「安心させてよ。もうそれだけでいいよ。俺だけだって分からせてよ。不安なんかどっかやってよ!」


「わかったから。落ち着いて。」


下から見上げて怒鳴る僕を真凜は優しく包み込んだ。


「あんたは本当に…面倒臭いんだから。」


真凜は僕の顎を上げて優しく唇を重ねた。


「大丈夫。あんたはいい子だよ。あたしはどこにも行かない。あんただけ見てるから。あんたとしかしない。だから、あんたと出会ってから誰ともしてないんだよ?知らなかったでしょ。」


「ほんと?この3年?」

「そう。」

「あんたはどうなの。」

「2人」

「結月と希咲ね…」

「そう。しりとりみたいな奴らね。」

「ふっ…たしかに。くだらないけどそんな感じね。」


「でもね…なんだろな。一生無理な気がする」

「なにが?」

「俺の事理解してくれてコントロールしてくれる人。」

「怖いんでしょ?」

「怖い」


「じゃあしなくていいよ。したくなったらすればいい。あたしはそんなのでいいからさ、あんたがいつでも頼れる場所でいてもいい?ここに来たければ来て、こうするだけでもいい。」


「男作ればいいじゃん。別にそんな道選ばなくても。やりたい時にやれる相手いた方が楽だよ?」

「もしだよ?あたしが誰かとするよね?あんた言わないけどあたしの事『汚い』って思わない自信ある?」

「ない。」


僕は即答した。


「最悪、あたしと口も聞かなくなるよね?」

「うん。無理。でも今なら好きにできるよ?今のうちなら。」

「しないけどね。そんなこと。」


「……。」

「キスしてほしい?」

「うん」

「ちゃんと言ってごらん?」

「キスしてください…。」


真凜は僕の唇に真凜の唇を重ねて、僕を待った。

僕がしっかり背中を抱きしめて舌でこじ開けると、真凜もそれに答えた。


そのまま僕は真凜に押し倒された。


「怖い?」真凜が僕に聞く。

「ううん。」

「どんな気分?」

「…『気持ち悪い』って言わない?」

「言わない」


「…幸せ。」

「私も。」

「でも、嫌。」

「何が嫌?」


「責められるの」

「どうして?」

「…女の人って責められたい生き物でしょ?責められたい男なんて気持ち悪いだけ。だからいいよ。してあげるから。」



僕は真凜に首を絞められた。


「嬉しいでしょ?幸せでしょ?」

「はい…幸せです…」


僕は微笑みながらか細い声で答えた。


『死んでもいい』そう思えた。


次第に涙が溢れて止まらなくなった。

真凜果てを弛めてただ撫でるだけになった。


「苦しいんじゃないよね。幸せなんだよね。このまま『死にたい』って思うんだよね。」


僕も腕を離して、真凜の首を絞めた。


「分かったような口きいてんじゃねーよ。それが一番ムカつくんだよ。」


僕は真凜を無理やり下にして上に乗った。

そして片手で首を絞めて頬を叩いた。


「お前に何がわかる。」

真凜は一切抵抗せず、


「あたしもそうなの」

と掠れた声で答えた。


僕は首から手を離して起こして抱きしめた。


「そういう事な。ごめんな。」

「いいよ。大丈夫。」


真凜の目を見て唇を重ねて、舌を絡めた。


経験上、一度もない感覚に陥った。

肌が…体が…歯車みたいに噛み合った。


そのまま、また寝かせて首に口付けた。そのまま唇を這わせて、服を脱がせて聞いた。



「何人に抱かれた?」

「20人くらい。」


「……」

「汚い?…よね。」


「違う。俺も触っていいの?」

「え? 」

「俺も…お前に触れていいの?お前は誰かのモノじゃないの?…」

「どういう意味?」



「ごめん。やっぱいい。できない。」


僕が少し離れてあぐらをかいて俯いてると、


「…教えて。いま、なにがぎったの?なにが怖かったの?」


「もういい…もういい!帰ろ?ねぇ。帰ろ?」


僕は少しパニックになってた。


「…わかった。帰ろ。でもあの結月のとこでいいの?今日帰れる?」


僕は頭を抱えて少し震えながら、


「希咲…希咲…希咲に電話して…希咲呼んで。」


僕がそういうと、真凜が希咲に電話をかけた。



――――――20分後。


勢いよくドアが開いた。


「ごめんなさい!遅くなった!涼くんは?!」

「あそこ。」


僕は部屋の隅で体育座りで頭を抱えてた。


「真凜さん、涼くんの車で帰っていいですよ。店に置いといてください。結月には絶対秘密で。真凜さんも面倒臭いの嫌ですよね?」


「そうだけど…何が起きてんの?」

「大丈夫ですよ。誰も悪くないので。」


「希咲…希咲…」

「大丈夫。居るよ。ここに居るよ。」


希咲は僕を抱きしめて背中を摩ってくれた。


「ねぇ、どういうこと?」

「ちょっと黙ってて!」

「ごめん…」


「希咲、怒んないで。真凜悪くないから。」

「分かってる。ちょっとうるさかったから。」

「真凜、悪くないよ。ごめんね。」


「涼くん。なにがあったの?」

「真凜とHできなかった。」

「したかったの?」

「したかった。」


「なんで出来なかったの?」

「怖くなった」

「なにに?」

「…この人も誰かのものだって思った。どうせ俺なんかって。俺なんかじゃだめなんだって。」


「そっか…。辛かったね。」


僕は12個も下の希咲に抱きついて泣いた。


「真凜さん、あなたは悪くないんで大丈夫ですよ。とりあえず今日は帰ってください。わけはそのうち話します。それか忘れてください。」



「真凜ごめん。本当にごめん。」

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