第8話 寄木

結月は短大生兼うちの社員。

希咲も社員。2人で話した時に


「どこにも行かない」


と言うので希咲もそばに置くことにした。


実際仕事もできる。頭もキレる。でも何より、結月に出せないところを出せる唯一無二の人。



結月が短大に行き始めて内心ストレスが溜まっていた。オトナのふりして背中を押したものの、本音は、不安だった。寂しかった。見えない誰かへの嫉妬で狂いそうになっていた。


結月が休みの日には、店を閉めて帰り支度をした後、喫煙所で煙草を吸いながら飲み始める始末。そう、半分壊れてた。


それに先に気付いたのも希咲。



「飲んでんの?」と僕に声をかけて隣に座った。

「うるせ」と返す。

「…かっこつけなくてよくない?結月だって馬鹿じゃないからわかってるよ。」

「黙れ…」


僕はフラフラしながらその場を離れようとすると、その下に空き缶が4つほど転がっていた。


「飲み過ぎ」とだけいい、希咲が空き缶を集め始めた。

僕は…しゃがんでる希咲に後ろから抱き着いた。


「きゃっ!危ないじゃん!」

「うるせ。やらせろ。」


希咲が振り向くと僕は笑っていた。


「無理しないで。私いるから。話くらいなら聞くから。」

「……頭おかしくなりそう。結月盗られそう。大学なんか行かせたくない。。。」


「頑張ってるよ。わかってる。耐えてるもんね。知ってるよ。」


情けない僕を希咲は包みこんでくれた。

僕は……希咲の胸の中で声を上げて泣いた。


「偉いよ、涼太は。結月の将来考えてんだもんね。偉いよ。とめたいけど止めたら結月の夢奪いかねないもんね。そんなことできないよね。」


そう。結月は幼稚園教諭になりたくて短大に通ってる、僕は…そんなあいつの夢をとる訳には行かない。どれだけしんどくても、どれだけ飲んだくれても、あいつの前だけは強くいないと……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る