第2話 母、半狂乱になる
「う、うんち!? ちょっと、ねえ、大丈夫!?」
小さな手にこびりついた娘の茶色いそれ。
カーペットや壁に散らばった茶色い、うんち。
自分が見た光景を疑った。あまりの事態に発狂しそうだった。
と、とにかくカーベットを拭かないと——じゃなくて、娘がうんちを食べるのを止めないと!!
混乱する頭で、おしり拭きを引っ掴み、慌てて娘の手を拭った。口の周りにも付着していたそれを、震える手で拭う。無我夢中で、娘がうんちを食べていたことをなかったことにしていく。床や壁についた汚れも拭いたけれど、さすがに取りきれなかった。でも今は、ついてしまった汚れよりも、娘が丸めたオムツを自ら開き、うんちを食べたという事実があまりにショックだった。
「やばい、やばいってこれ」
半狂乱になりながら娘と家の中を綺麗にしたあとも、私は動悸がおさまらなかった。
スマホで「赤ちゃん うんち 食べる」と検索してみると、実際に娘と同じように自分のうんちを食べたという赤ちゃんが、いた。
そのお母さんも私と同じように絶叫し、半狂乱になったというようなブログを書かれていて、少しだけ気持ちが落ち着いてきた。子育てって基本的に一人で子供の面倒を見ていることが多いから、何かイレギュラーなことが起こると怖いのだ。
そばで誰か——たとえば助産師さんなんかが、「うんちぐらい食べたって大丈夫ですよ〜」と言ってくれたら安心できるのだが、現実はそうではない。赤さんが熱を出したり何かを誤飲したりした時、私がどうすべきか判断するしかないのだ。
病院に連れていくなり、食べたものを吐き出させるなり、やり方はいろいろあるが、共通して言えるのは誰にも頼れないということ。夫や家族がいる時ならまだしも、一人でいる時にはもう自分しか娘を守ってあげられない。そのプレッシャーに、気がつけば身も心もカチカチになっていた。
ちなみに、うんちを食べるのはもちろん良くはないけれど、自分のうんちならばそれほど害がないことが多いそう。とはいえ、その後の赤ちゃんの機嫌や食欲を気にしなければならないのは間違いない。
まあ、いくら無害とはいえ、私は、娘にうんちをたべさせてしまったという罪悪感でいっぱいだった。ごめん、うたた寝なんかして。あー、夫は何て言うかな〜びっくりするだろうな、と反省しつつ、娘の方を見ると、娘はいつも通りの調子でニコニコと座っていた。
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