自分のうんちをたべた娘
葉方萌生
第1話 まさか、あんたが食べてるのって……
とある平日の夕方。まどろみの中、先ほどまでハイハイで歩いたりおもちゃをあさったりしていた生後11ヶ月の娘が、いやに静かになったと感じた。
そう、“いやに”。
四六時中手のかかる赤ん坊と生活していると、泣かれたり抱っこをせがまれたりと、心休まる暇があまりない。だから、こうして静かになった時は自分が休むチャンス! 趣味に没頭するまたとない機会だ! と思い、いつものように疲れてうとうとしていたのだ。
だが、それがいけなかった。
私は、かすむ視界の中で、娘が何かを手に持って、咀嚼しているのを見た。
普段私は視力が0.01ほどしかないのでメガネをかけている。いわゆる瓶底メガネだ。
うたた寝をする際、その瓶底メガネは丁寧に畳んでテーブルの上に置いた。だから、今の私の目は半径10cmほどの距離しか、はっきりと見えない。
「ん……?」
裸眼で寝ぼけ眼の私は、娘が何を食べているのか、よく見えなかった。
見たところ、茶色い何かだということはぼんやりとした視界でも理解できた。
娘が床に落ちているホコリや紙切れを食べてしまうことは日常茶飯事だった。見つけ次第吐き出せるようにしているが、頻度が増えてくると「まあ紙くらいいっか」と、黙認することも多くなっていた。
きっとまた、ゴミを拾って食べたんだ——と思いたかったけれど、視界の端に転がったオムツを見て、私は絶叫した。
「何食べとーと!?」
こういう時思わず口から出てしまう故郷福岡の博多弁でプチ叫び、物言わぬ娘へと駆け寄った。
「え、え、え、ええっ!?」
本当、今考えてもアホらしいくらい、漫画みたいに素っ頓狂な声をあげて状況を理解しようとする私。床に転がったオムツは、新しいものではなく、先ほどまで娘が履いていたものだ。くるくると丸めていたはずなのに、無造作に開かれたオムツ。それを、さっき私がオムツ交換した時に捨て忘れていたんだ。と、そこまではまあよくあることだったのだが、娘が手にしてむしゃむしゃと食べているもの——それはなんと、自分のうんちだったのだ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます