最終話 チョコレートのように甘く

 好き。付き合う。待て待て思考が追いつかない。なんで結野ゆのが俺のことを…

 「…そうだよね」

 考え事をしている時の癖から俺の目線は下を向いていた。はっ!と思い視線をすぐに上げ、結野を見る。次に俺の眼に映ったのは、少しづつ涙を流す彼女の悲しげ表情だった。

 「ごめんね。忘れて…」

 泣き顔の結野が俺の横を通り過ぎる。

 俺は今、一番やっちゃいけない結果を残そうとしている。

 「待って!」

 振り返って俺は、通り過ぎる結野の腕を優しくそれでいて力強くギュッと掴む。俺の眼に振り返る彼女の顔が映り込む。

 「離して、」

 涙を浮かべる結野が、俺の手を振り解こうとする。

 「離さない!」

 重く低く強い声とともに彼女の手を引っ張り、離れようとするその身体を引き寄せる。

 「…嫌なんでしょ」

 俺と結野の距離が拳一個分になる。急な接近に彼女は、俺から視線を外す。でも彼女の頬は少し赤くなっていた。

 「いやじゃないよ」

 俺の言葉に結野はまだ視線を逸らしたままだ。それでも俺は続ける。

 「最初はビックリしたよ。結野さんとは数回しか話したことないし、なんで俺なのかな~。とか考えこんじゃうしさ」

 「でも…今、めっちゃ嬉しいだ。だから俺に言わせて」

 外していた結野の眼と俺の眼が合う。

 「結野さん。俺と付き合ってください」

 ふるふると震えだす結野の身体。それと同時に止まったはずの涙が再び溢れ出す。

 「はい。よろし…キャッ⁉」

 「うわ⁉」

 結野から返事を聞きかけた時、バランスを崩した俺たちは屋上の床に崩れ落ちる。落ちる瞬間、結野の後ろの腕を回し彼女を守る体制をとる。

 ドサッ!

 押し倒すかたちで俺の身体が結野のことを覆う。

 向かい合う俺たちの間に沈黙が漂う。

 「ぷ、あははは」

 「ふ、ははは」

 二人きりの屋上で結野の笑い声が木霊す。彼女に釣られ俺も思わず笑い声を零す。

 夕日に照らされた俺たちの影が屋上の向こうへ伸びる。


 「はいこれ!」

 下校途中、隣を歩く真理まりが鞄から取り出した小さな紙袋を俺に渡してきた。

 「ありがとう。…これは?」

 「開けてみて」

 渡された小さな紙袋を開けて見ると、中には赤いリボンでラッピングされた透明なビニールあり、中には一欠けらのガトーショコラが

 それよりも俺は、あることにビックリした。ガトーショコラの上に乗った一枚のプレートだ。

 『阿礼くん。誕生日おめでとう!』

 プレートに綴られていたその言葉に俺の眼から小さな雫が落ちる。

 その涙に誓う。今日というな日を忘れないことを。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2月14日の告白 春羽 羊馬 @Haruakuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ