第10話 真正面の言葉
冷たい風が肌を撫でる。
僅かばかり空に近いこの屋上はグラウンドほどの広さがある。今その中心に誰かが立っている。でもそれが誰なのか分からない。
近くて遠いところから差し込む真っ赤な太陽が、その誰かに影を重ねる。
影の元へ俺は、冷たいコンクリートの上をゆっくりと進んで行く。一歩ずつ近づくにつれ、その誰かに重なる影が徐々に剝がれていく。
長いまつ毛に丸い瞳。その整った目鼻立ちに桜色の唇。膝下まで伸ばしているスカートから彼女の真面目さが伺えた。目の前にいる女の子を俺は知っている。
「き、来たか我が呼び人」
よく分からんことを口にしだしたよこの人。
片手で顔を隠しつつ中二病ぽいことを言っている。指と指の間から覗かせている結野の瞳が、僕の姿を捉えている。
「え~と、確認なんだけどこの手紙は君が?」と俺は、ポケットから取り出した手紙を彼女に見せる。
俺の質問に無言で頷く結野。
「あ~、俺で合ってる」
俺は人差し指で自分のことを指し、結乃に確認を取る。続けざまの質問にも彼女は、無言で頷く。
ふぅ~良かった~。手紙の相手が俺じゃない!ってなってたらその後どうすれば良いか分からなくなってたからな。
手紙をポケットに戻しつつ結野に「それで用ってのは…」と、呼び出された理由を聞く。
「そ、そうだ私…いや我は君に用があってな」
「……」
どうしよう。どう反応したらいいのだろう。頭の中で対応策を考える。が、しかし結野は、無言の俺を無反応と捉えたのか。彼女の口から「あ、あの~」とオドオド声が聞こえてくる。
「あ、ごめん」
やばい、結野が不安がってきてる。なんか話さねぇと。
「え~と…その喋り方、疲れない」
考えた挙句、出た言葉がそれだった。って、なに言ってんだよ俺は、もっと他に聞くことあるだろ。すぐさま次に聞くことを考える。も俺は、目の前に立つ結野の身体が小刻みに震えていることに気がつく。
「やっぱり無理!わたしには出来ないよ」
そう言った結野は変なポーズをやめ、両手で自身の顔を隠し始めた。
「よし!」
変なポーズをやめたかと思えば結野は、顔を隠していた両手を下ろし真剣な眼差しで俺のことを見る。
「阿礼くん!」
「はい⁉」
彼女からのとっさの呼びかけに戸惑う俺。
「阿礼くん。あなたのことが好きです。わたしと付き合ってください!」
次の瞬間、戸惑っている俺の耳に届けられたのは、強い気持ちのこもった結野の言葉だ。
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