第9話 手紙は屋上を

 「いやだ。俺も行く」

 3階・階段前の廊下で、放課後へ向かおうとする俺を奈集なつが引き留める。

 そんな俺たちへ、道行く他の生徒たちがすれ違いざまに目線をくれる。

 「阿礼あれいくん。こんなヤツに構わず行きな」

 「いやでも…」

 「大丈夫。コイツはあたしが連れて帰るから」

 その場の状況に色丸しきまるさんはため息を零しつつ俺へ向け”早く行きな”と手首を動かす。

 「ほら行くよ!それじゃ、またね」

 そう言って色丸さんは、奈集の手を掴むとその手を強引に引っ張って行き、階段を下り1階のほうへ消えていった。去り際、「明日覚えとけよ!」という奈集の声が聞こえてきた。

 下校していく彼女たちを見送った俺は、反対に階段を上っていく。向かう先は校舎六階に位置する場所”屋上”

 なんで屋上に向かっているのか?というと遡ること数時間前。俺は自分の机に入っていた差出人不明の手紙に目を通したからだ。

 『放課後、屋上に来てください』

 手紙には一言だけただそう書かれていた。

 ”名前が無い”その手紙を読んで一番に思ったことはそれだった。

 宛名も差出人も無かった便箋。中身の手紙になら書かれていると思ったんだけど…

 手紙の内容を読んだ時は奈集が「果たし状か?」なんて言うし、正直今もこのまま俺が向かっていいのか?とも思っている。

 そんなことを思うからか?俺の足は、上に行くにつれ自然と遅くなっていた。それでも気づけば屋上へ続く扉の前に立っていた。

 扉の前で深呼吸を一回。温かい室内にも関わらず吐く息は、今朝同様に目に見えるくらいに白かった。

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