第8話 アイツの幼馴染

 「あ、おい!」

 手紙を取り上げようと俺の手が奈集なつのほうに伸びる。

 その手紙が自分宛のモノかどうかは、まだ分からないけど俺の机の引き出しに入ってた以上俺より先に奈集コイツが読むのは違う。それはきっと差出人も望んではいないと目の前に光景に俺は身勝手ながら感じていた。

 やがて伸ばした指先が奈集の持つ手紙に触れる直前、手紙は奈種の手から離れ掴もうとしていた俺の手は空を切った。

 その一瞬のうち、自分の手から手紙が離れた状況に奈集本人も瞬きを繰り返している。

 気がつくと手紙は奈集の頭上で誰かに握られていた。

 「さっきからうるさいんだけど、奈集」

 手紙を持つその手の主。肩まで伸びる綺麗な黒髪を纏めたポニーテールをなびかせ、背筋の伸ばした堂々たる立ち姿、キリっとしたその目から発せられる鋭い眼光では奈集を見つめていた。

 「絵七えな…」

 クラスメイトの色丸しきまる絵七えなさん。彼女は奈集の幼馴染で何かと暴走する奈集コイツを止めてくれる。色丸さんには俺も助けられている。

 「…ったく。はい、阿礼あれいくん」

 「助かったよ。ありがとう色丸さん」

 ごめんね。と表情をみせる色丸さん。

 奈集から取り上げた手紙が彼女から俺のもとに帰ってくる。

 「それがラブレターなの?」

 「ああ、なんで?」

 手紙に疑問を持つ色丸さん。

 「ふ~ん。いや、ラブレターなのかな~と思って」

 色丸さんの一言に俺は自分が思い込んでいたことに気づく。

 「そういえば…」

 俺と奈集はさっきまで手紙それが、ラブレターだと決定づけていた。

 バレンタインデーの魔力からか?宛名と差出人が無いことやハートのシールということからその手紙がラブレターなのだ認識していたのだ。

 「読んでみたら」

 考え込む俺に色丸さんの声がかかる。

 正直周りに人がいる中で読みたくは無かったが、このまま読まないでいるとまた奈集が読むと思った。

 弁当を食べる手を一度止め、俺は便箋から手紙を引き抜きそれを開くことにした。

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