第4話 誰もが持つ特別な日

 ”誰もが持つ特別な日”

 世の中には、その特別な日を意識する人と意識しない人の二種類が存在する。俺の場合は後者である。

 俺が言う特別な日は、その人にとって一番のある日で、一番大切な日だ。察しの良い人はお気づきだろう。

 2月14日バレンタインデー。この日は、俺・阿礼あれい実架みかの誕生日なのだ。

 俺自身もう覚えてない。俺は、何時からか自分の誕生日を意識しなくなっていた。だからか毎年誰かが言うまで俺が、2月14日それに気づくことは無い。

 「なんで、こうなったかな…」

 手元のデバイスに視線を落とす俺。今年も生まれたそんな気持ちが、ボソッと口から零れ落ちる。

 「ん?何か言ったか」

 「…いや、なんでもない」

 零した気持ちを奈集なつが拾ったかと思い、俺は心が少しヒヤッとした。

 「お前ら席に着け!ホームルーム始めるぞ」

 教室・教卓側の引き戸を開け、手に持った日誌を肩に当てながら一人の男性教師が入室する。俺ら1年2組担任の山里やまさと千草ちぐさだ。

 山里先生の登場に奈集や他のクラスメイトたちが、足早に自分の席へ戻る。

 世の野郎共が浮かれるこんな日だって言うのに、着古した黒いスーツで身を固め、いつもの寝癖が目立つ髪型の山里先生は、耳にかけている黒ぶち眼鏡越しに俺らを見渡す。

 山里先生は教卓に立つと持っていた日誌を広げ、口頭で朝の連絡事項の説明を始める。

 山里先生の淡々とした声から送られる言葉が、クラス全体に届けられる。

 クラス内は、真面目に話を聞く生徒がいる反面、隣同士でコソコソ話をする生徒もいれば連絡事項そっちのけで机の影に隠したデバイスをいじる生徒もいる。けれど山里先生は、それらを注意すること無く連絡事項の説明を続ける。

 そんな周囲の光景を見飽きている俺は、机に立てた肘に頬を乗せ、流れてくる言葉の数々を頭の片隅に置いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る