第5話 言ってることとやってること

 「あ~チョコ欲しい~」

 「まだ言ってんのかよ。信じて待つんじゃなかったのか?」

 朝のホームルームを終えた俺たちは現在、一・二限の体育の授業を受けている。

 今日の授業内容は持久走で、俺と並走している奈集なつが引きずるその気持ちを吐露している。

 自分で言うのもなんだが俺は運動神経が良いほうだ。奈集コイツに合わせず独走して、とっとと走り終えることも出来る。が、どうも今日はそんな気分にはなれなかった。

 という体育の授業不人気率上位のこの種目。いつもやる気の無い生徒たちも今日は違った。バレンタインデーという魔力に当てられた一部生徒(主に男子生徒)が、稀に見る全力を出している。なんでも一部生徒の間で”全力で何かに打ち込む人はカッコいい”というがあるらしい。

 走る直前スタート位置で俺は奈集に「奈集は全力で行くのか?」と聞いたところ「ああいうのは、二流三流がやることだ。おれはそんな噂話は信じず、じっと来るのを待つ。それが一流だ」と隣で奈集が自信満々の表情を見せる。

 じっとねぇ~。数十分前まで教室で結構デカめな声で「チョコがねぇ」って言ってたヤツが言うセリフかそれ。と内心思ったが、それを口にはしなかった。

 「あ、そうだ実架!今日は一緒に走らね」

 「…良いよ」

 1秒ほど思考を回した俺は、奈集の提案に乗ることにした。正直なところその提案に助かった部分がある。走り初めてから目にして思ったが、あの全力の輪の中に混ざる勇気は俺には無かった。むしろ混ざりたく無いと思った俺にとっては、その提案は都合が良かった。

 それから数分ほど経過したころ俺たちは、持久走(2キロメートル)を走り切った。その後すぐ後半走者の生徒たちと交代した。後半走者の何人か噂を信じているのか全力で走る姿が見られた。因みに当の女子生徒たちだが、彼女たちは反対側のコートでテニスをしている。そのため彼女たちの視線がこちらを向くことは、ほとんど無い。

 そのなんとも言えない状況を眼にしてた俺はふと、ため息を零していた。

 

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