第3話 今日のニュース

 校舎へ足を踏み入れた。

 そこで俺が眼にした光景は、昇降口の至る所で男子生徒たちが自身の下駄箱の前で立ち止まっている姿だった。

 彼らは自身の下駄箱を開け、眼にしたモノに落胆した表情をした。かと思えば顔を上げ下駄箱から取り出した上履きに履き替え、まだ大丈夫というような表情をし、各々自身の教室へ向かって階段のほうへと消えていった。

 (何なんだ?いったい)

 昇降口という場で主に野郎共が行うその不可解なを疑問に感じた。

 俺は頭に?を浮かべながらもサッと上履きに履き替え、自分が所属している1年2組の教室がある3階に向け階段を上る。

 3階の廊下を歩き進めた俺は、1年2組と電子表示されているもとの扉に手をかける。

 肩に担いでいたカバンを自分の席に掛け、椅子に腰を下ろし着ていた上着を脱ぎ、首に巻いていたマフラーを外し一息つく。

 目の前に映る教卓。その後ろで展開されている黒板型モニターには、現在時刻が表示されており、ホームルームの時間まで10分ほどあった。それを確認した俺は、ズボンのポケットに入れておいた携帯端末”デバイス”を立ち上げ、それで時間を潰すことにした。

 「大変だ!実架みか

 そんな俺の元に慌ただしい様子で1人の男子生徒がやって来た。

 ワックスでカッコ良く整えられた明るい茶髪で、着苦しいのか?オシャレなのか?制服を着崩しているその男子生徒・稀星まれぼし奈集なつは、鬼気迫る表情をしていた。

 奈集のその様子に対して俺は(今日はなんだ?)と思いつつ「どうした?」と淡々と返す。

 奈集のこの言動は今に始まったことでは無く。日頃から何かと大変だ!と俺にその日のニュースを伝えに来てくる。高校に入学してから友達になったコイツのニュースが、今では日常になっている。

 「チョコが無いんだ!」

 奈集は、一大事とその言葉を口にした。

 (…え、チョコ?なんでチョコ)

 俺が何故という気持ちを顔に出していたのか?それを読み取った奈集が、「おい、」と呆れた表情になるも思い出させるようにその一大事を伝える。

 「なにポカーンってしてるんだよ。今日は待ちに待っただろ!」

 奈集のその言葉を耳にした俺は、心の中にあった違和感がスッと抜けていくのを感じた。

 「そっか…、今日14日か…」

 2月14日…。それは年に一度、特定の人々が妙にソワソワ・ワクワクする日。世に言うところのバレンタインデーというヤツだ。

 正門の山船やまぶね先生や昇降口の男子生徒・いま目の前にいる奈集コイツ、道理でみんな毎日いつもと違う訳だ。

 「あ~、忘れてたわ」

 頭の中で今日のことについて納得する俺は、ボヤっとした感想を口にする。

 「忘れてた。って、お前な~」

 奈集は手を額に当てる。一大事だということを思い出したのにも関わらず、それについてという様子を見せる俺へ向けて。

 ”バレンタインデー”

 俺が今日という日を気にしていないことについては、正直無理も無い。と俺自身が分かっていた。

 それは…

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