第2話 眼に映る違和感

 青信号の短い横断歩道を通り足を進めること数分。

 俺の眼には、自分と同じように制服で身を包めた学生の姿が徐々に映り出すようになっていた。

 少し遠くのほうに視線を伸ばすと俺が通っている学校の校舎が見えてた。

 私立しりつ青天せいてん高校こうこう

 昨年4月に入学した高校だ。”何事も思いっきり”を校訓に挙げている。

 校舎へ伸ばしていた視線を目の前に戻し、その校舎への道のりをゆっくりと歩く。

 到着した学校の正門には、いつものように仁王立ちでいる本校の体育教師・山船やまぶね悠苺ゆうまの姿があった。

 山船先生は、続々と登校してくる生徒たち1人1人に「おはよう!」と朝の挨拶を呼びかけている。先生の挨拶にすれ違う生徒たちも坦々と挨拶を返していた。

 他の生徒たちと同じように俺もすれ違う山船先生に「おはようございます」と挨拶を返し、正門を通り抜ける。が…

 「おう、阿礼あれい!おはよう元気してるか」

 うしろから背中をおもいっきり叩かれた俺は、山船先生に捕まった。

 「いってー⁉…元気っすよ。一応」

 そう言い返しつつ振り返った俺は、背中に残る痛みに耐える。自身の腕で背中をさする俺の隣で山船先生は、口を大きく開け笑い声を響かせていた。そんな山船先生の姿を眼にした俺は、先生の恰好がいつもと違うことに気づいた。

 担当している科目からか普段は上下ジャージ姿でいる山船先生が今日は、白のワイシャツに黒のズボン。ワイシャツの上からは濃い青色のカーディガンを重ねており、髪も気持ちほど整えられていた。

 「山先やません。…今日、いつもと違くね?」

 いつもと違う恰好に違和感を持った俺が山船先生に聞いてみると先生は、先までの大きく開いていた口を細めていく。

 「…やっぱ、変か?」

 「いや、別に変…ではないですけど」

 俺は、小さく耳打ちしてきた山船先生に正直な感想を伝えた。俺の言葉に先生は、ホッと胸を撫で下ろす様子を見せる。山船先生の表情に俺は、訳が分からず首を傾ける。

 「それじゃ、自分はこれで」

 「ああ、足止めさせてすまんな」

 俺は山船先生に一礼し、正門で止めていた足を動かし校内・昇降口へ歩き進める。

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