第5話
ポツポツ、ザァアアア……!
激しい雨が降り出した。
動悸がする。
呼吸するたびに異臭が鼻をつく。
車内は最初からこんなに空気が悪かっただろうか。
電話をかけた。
「もしもし」
「あ、真由香ちゃん?この車ドア開かないんだけど」
言いながら不信感を抱いた。電話の向こうはざわついている。総務部長のガラガラ声が聞こえる。
「すみません榎本係長、ちょっと私用の電話で出てきますね」と真由香ちゃんの声。
おかしい。まるで社内にいるみたいじゃないか。
さっきまで一緒だったのに。
雨の合間に雷鳴が轟く。
電話の向こうが静かになる。人気のないところに移動したらしい。
「車って……何言ってるんです。話がよくわかんないんですけど」
「何って、君の車の空調見てるんだよ。飲み物買ってくるってそのまま消えるなんて薄情だなぁ」
「何のことですか。車なら週末買い替えました。
私昼間にぶつかった後、野崎主任には会ってませんよ」
はぁ?
何の冗談だ。
「おいおい、これってドッキリか何かなの?」
「知りませんよ……あ」
彼女は何かに気づいたように言葉が止まった。
返事を待つ。俺は貧乏ゆすりをしていた。足元の感触がぶよぶよしている。
フロアマットが濡れていた。
靴の動きに合わせてぱしゃぱしゃ音がする。
浸水?まさか。
「そっか、美紀ちゃんの仕業かぁ! よかった!」
急に明るい声。
アンダーパス。
夕立。
美紀。
まさか。
「え?なんで美紀のこと知ってんの?これアレかな?俺が前に怖がらせたからその仕返しとか?ははっ」
俺の声は情けなく震え始めていた。
「あんなん怖がるわけないでしょ、知ってたんだから」
「えっ」
思考停止。
今なんて言った?
「あたしここに派遣される前に従姉妹の三周忌に出たんですよ」
「なんのはなし」
「私の従姉妹、
背筋がゾワっとした。
「あなたが見捨てた女の名前ですもんね、野崎主任」
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