第13話

「あらわかってくれるの乱麻!」


 続けて果報は「お前も実はミステリー好きだったのですね」と言おうとしたが。


「これ以上ライバルが増えたら困ります」

「……は?」

 驚く果報をよそに執事は美声で滔々とうとうと語り出す。


「果報様に降りかかる幸福にことごとく対応するのが私の使命、そして果報様は私の想い人、その存在はそのまま私の生きがいです!


 これまでも近づく男は全て排除してきましたがさすがに官憲かんけんにまで手をかけたくはありませんね。


 私が大人しくしているうちに即刻手を引いていただきたい!」

 キラーン! 陽の光に眼鏡が反射する。

「…………」

「…………」


 女子ならおそらく一度は夢見る状況。

 「私のために争わないで」状態。


 しかし果報は不満だった。色恋沙汰より、今はやりたいことがあるのだ。幸福すぎて順調すぎて退屈な毎日にスリルをもたらしてくれるものが、心の底から欲しい。


――だから、こんなことしている場合ではないのに。


 バチバチと執事と刑事が火花を散らす。

「ちょっと2人ともやめて下さい」

「僕と貴女とは相性ピッタリなんですから。大丈夫、貴女は僕が幸せにして差し上げます!」

「お嬢様の体質を1番よく理解し、寄り添えるのはこの私です!」


――そんなことを、そんなことを私は望んでいるのではない。それよりも。


 大きく息を吸い込んで、幸福すぎる美少女、幸福最上院果報は叫ぶ。


「ですから私は!

 謎を解きたいんですってばーー!」


 声に驚いた鳩が辺りのビルから飛び立つ。

 心からの叫びは、晴れ渡った空に吸い込まれていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸福最上院果報は謎を解きたい 蒼生光希 @mitsuki_aoi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ