第9話 お誘い

 感染者が減って、ようやくまともに買い物できるようになった休日の夕方。

 私は戦利品を手に、うきうきした気分で最寄り駅に着いた。


 壁にもたれてる人に見覚えあるな、と思ったら千早君だった。真剣な顔でスマホをいじっている。


 私の中にイタズラ心がむくむくと沸き起こる。

 いつも不意打ちで現れてペースを乱されるから、今日は私から声をかけちゃおう。


「千早君!」

 彼はビクッとして、スマホから顔を上げた。

「先生」

「びっくりした?」

「はい……」と目をしばたかせて彼は笑う。

 

「今日もバイト?」

「はい、帰るところで……ああ、ちょうどよかった。

 先生、同窓会来ませんか」

「同窓会?」


 久しぶりに聞くワードだった。ここ数年、その手の集まりは中止が続いている。

「今ちょうどLINEで話してたんです。感染も落ち着いてきたし、地元にいるメンバーで集まろうかって……4、5人だし、よかったら」

「ええ、どうしよう……」

「ここに予約入れたんですよ。

 港通りに新しくできたお店」

 彼はスマホの画面を差し出す。


「えっ、あそこ? よく予約取れたね」

 テレビで見かけて、アカウントをフォローしていた人気のイタリアンのお店。ルミとも「そのうち行きたいねー」と話していたのだ。


「でも、そういう場に先生がいたら嫌じゃない?」

「全然! 桜井先生なら皆大歓迎ですよ」

「そう?」

 千早君が力を込めて言ってくれたのが嬉しかった。

 LINEを交換して、その場は別れた。


 カレンダーアプリに「同窓会」と入れるとテンションが上がり、三浦先生からも「なにかいいことあった?」と聞かれる始末だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る