第7話 再会

「やだなぁ先生、僕ですよ僕、覚えてません?

 千早薫です」

「千早……君?」


 そう言われても信じられないくらいに。

 目の前の彼はジアン君そっくりだった。


 長い黒髪は茶髪になり、アシンメトリーの洒落しゃれた髪型に。コンタクトにしたのか眼鏡もない。


 何より昔の彼は、こんなに堂々としてなかった。


 そういえば私、彼のこと振ったんだっけ……。


「先生、どうしました?」

 千早君は手を放し、私の顔をのぞきこむ。


「えと、ごめんね……好きなアイドルに似てて」

 私は傘を持ち直し「先生の顔」に戻る。

「え、もしかして先生も?」

「もって、何」

「僕、ジアン君のファンなんです!」


 それは雨降る夜でもまぶしい笑顔だった。

 そうなんだ、と答えながら顔が赤くなるのがわかる。


 何考えてるの、私。

 彼は元教え子なのに。

 

「えと……じゃあ、私はこれで」

「そうですか。暗いので気をつけてくださいね。じゃ」

 

 彼は会釈して、あっさり去っていった。


 あの告白から何年経っただろう。背も伸びていたし、何よりあの顔。危うく妄想が広がりそうで。


「いや……ないない」


 声に出してつぶやき、ようやく帰路につく。

 

 偶然の再会。

 彼とはそれきりのはずだった。

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